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利根生物談話会会長 小池 渥(沼田市西倉内町)


【略歴】長野市出身。信州大卒。長野県蚕業試験場松本支場勤務を経て、1954年から県内公立高校で生物教諭を務め、91年に武尊高校長を最後に退職。




ブラジルの蚕糸業


◎日本の技術が貢献


 このほど大学の友人で現在ブラジル・サンパウロ州ブラタク製糸名誉会長の谷内利男氏から、蚕糸業の概況が届いた。

 蚕の品種は日本種と中国種の一代交雑種(多くの場合四元交雑)。ブラタクとフジムラの二社で自社の蚕品種(原種)を系統保存している。蚕期は八月下旬から六月までの約十カ月(七月は真冬)。養蚕農家は二十八―三十五日周期で稚蚕の配布を受けて飼育する。養蚕地帯は南緯二一度から二六度に分布し、年間飼育回数も温暖地、冷涼地で若干異なる。六―九回と幅があり、平均七・五回程度(製糸会社は年間四十週、毎週掃き立て稚蚕飼育を行い、全養蚕農家の注文に応じている)。

 桑の品種は、ポルトガル植民地時代にイタリア桑など欧州から導入されたという在来種から、日系篤農養蚕家によって枝条変異種が選抜されて普及している(篤農家の名をとりミウラ桑、コーリン桑などと呼ばれる)。また、最近では在来種に日本桑の系統を人工交配したものやタイから導入した暖地向きの品種が普及し始め、その生産性から徐々に栽培されている。植え付けは古条挿し木法で、露地へ挿し木し、半年後から収穫を始めることができる。桑園面積はブラジル全体でおよそ一万五千ヘクタール、養蚕農家戸数六千二百戸、一戸平均二・四ヘクタール程度。産繭量約六千二百トン。専用蚕室は幅七・五―八メートル、長さ二十一メートルが標準、十箱以上では六十―八十メートルという蚕室もある。

 飼育は土間育、または飼育台を用いて回転蔟まぶしに合わせ一・六メートル幅の蚕座三列を設ける条桑育である。収繭、毛羽取りの機械類は原始的で日本のものと同じである。本社では稚蚕飼育をして二眠蚕を契約養蚕農家に販売供給している。三齢以降の飼育をして、生産した繭をそれぞれの製糸会社に出荷し、繭代金を受け取る仕組みである。

 谷内氏は長野県千曲市(元埴生町桜堂)出身で、大学では製糸学専攻。卒業後、高崎市の増澤工業に在籍中、ブラタク製糸からの要請で一九五六(昭和三十一)年に渡伯した。幾多の苦難の末、製糸工場長、専務、会長、名誉会長と栄進し、ブラタク製糸の近代化に貢献された。サンパウロから六百キロ奥地のバストスで、現在では日本からの後輩の呼び寄せや、機械・諸技術の導入を実施。ヨーロッパ・日本への輸出国にまで発展させ、一九九七年度に通産大臣から経済協力者表彰を受賞した。

 わが国の技術や人材が、遠く離れたブラジルの養蚕と製糸業に大きく貢献してきたことに感慨を深くする。移民など人の交流で縁の深い両国だが、本県の主要産業であった蚕糸業で結びついた関係にもあらためて目を向けたい。



(上毛新聞 2008年9月19日掲載)