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県立ぐんま天文台観測普及研究員 浜根 寿彦(高山村中山)


【略歴】東京都杉並区出身。1997年から県職員。県立ぐんま天文台の発足準備に携わり、99年の開館時から現職。彗星(すいせい)の観測的研究など惑星科学が専門。



ぐんま天文台


◎体験の楽しさを県民に



 星空を見上げて星座物語や星々の解説を聞いたり、流れ星を見つけたり、宇宙の広がりに思いを馳(は)せたりというように、何かに夢中になっているうちに、いつの間にかものの見方や感じ方が変わった気がするということがありませんか。

 ぐんま天文台というと「天文学」と「研究」が思い浮かんで、県民からは距離を置いた研究施設のようなイメージがあるかもしれません。でも、一度でもいらした方ならばおわかりいただけるように、館内にはいつも職員がいて、入館者一人一人の興味関心に心を配りながら、まるで世間話でもするかのように宇宙のことをはじめ多様な会話を交わしています。学校の団体で訪れた小中高校生は、さまざまな「本物」を目の当たりにして体験学習をしていきます。

 ぐんま天文台の大きな目標は、天文学を題材にした県民向けの科学教育・普及です。要は、自然を観察することや筋道立てて考えることの面白さ、理科の楽しさを子どもたちに味わってもらい、学校の勉強に結びつけて「未来を創(つく)る新しい心」を育(はぐく)んでもらうこと、そして、訪れた皆さんには普段着感覚で星空や天文の楽しさを味わい心豊かな日々を過ごす一助としてもらうこと、時には本気で宇宙に向き合ってもらうこと、これに尽きます。

 「天文学」や「研究」はそのために必要な下地・土台です。確かな土台を欠いた教育・普及活動は表面的なものにしかなりません。すぐに底の浅さが露呈します。そして飽きられます。何かしら感じ思い続けることが得られたり、日常生活で一人一人が新たな楽しみを紡ぎ出したりすることのないその場限りの表面的な活動に終始すれば、天文台に再び足を運んでいただくこともなくなるというのがものの道理です。

 私自身は、研究活動を土台とする科学者としての確かな見識と、お客さまを迎え入れもてなす心遣いの両方が職員にあって、初めて本物の教育・普及活動が成り立つと思っています。だからこそ、ぐんま天文台の設立理念に共感して群馬の地にやって来ました。

 「研究」イメージが独り歩きしてきた天文台ですが、「一人一人の個性や能力を伸ばし、未来を創る新しい心を生み出す」というそもそもの設立理念に照らして、県民の皆さんに何を提供できるかを常に考えた活動を積み上げてきたのがその真の姿です。いつの間にかものの見方や考え方が変わったような気がする、楽しみが増えたなどと言っていただけたら嬉(うれ)しい限りです。

 星空を見上げて思いを巡らせたり、最新の科学の話を聞いたりして、ぐんま天文台でいろいろな体験をし、楽しめることを五感で味わっていただきたいと強く願うこのごろです。





(上毛新聞 2008年9月27日掲載)