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雑誌編集者 吉田 泰章(東京都大田区)



【略歴】伊勢崎市生まれ。明治大卒。エコ&ナチュラルな情報を企画編集するアクアパパ代表、ライフスタイル雑誌「ナチュラルスタイル」(不定期刊)編集長を務める。



ウソや不正


◎当事者意識を持って



 毎日のように企業や政治の不正や偽装など、儲(もう)けるために行われた“ウソ”が報道されています。最近では事故米の転売など食の安全性が大きく取り上げられました。きっと多くの人が憤っていると思います。「日本はいったいどうしてしまったんだ」と。

 私も、つい罪を犯した人や企業を「何やっているんだ」と責めてしまいます。「何を食べて、何を買えばいいんだ」と。しかし、どんなに不正を責めても、自分たちは被害者だと思って何もしなければ、世の中は何も変わっていきません。「バレなければ何をやってもOK」「正直者が馬鹿(ばか)を見る」という言葉は、日本社会では昔からずっといわれ続けてきました。まじめにコツコツ丁寧にやっているお金儲けの苦手な人より、ちょっとズル賢くて強引でもデキる人のほうが尊敬されたりする風潮もどこかにあったような気がします。ですから私は、そんな世の中を創(つく)り上げたのは、ほかならぬ消費者としての私たち一人一人なのだと思っています。

 今の日本社会を見渡してみると、自分の利益に直接影響すること以外、自分が主体的に真剣にかかわることがほとんどなくなって、当事者意識がものすごく薄くなっている気がしています。私はここに環境問題を含め、現代社会の多くの問題の原因が潜んでいるのではないかと思っているのです。確かに、現代社会は効率化のため分業が進んでいて、一人一人がすべてのことを直接チェックすることは不可能です。それでも、消費者一人一人にできることはたくさんあると思います。

 たとえば、食の問題。自分が食に対して真剣にいいものを探し求めるなら、食べる人にとっても、作る人にとっても、そして自然や環境にとっても本当に安全で健康なものは、たくさんあります。安ければいいという商品選択ではなくて、生産者と顔が見える関係をつくったり、有機栽培商品を購入したりして、安全に対する対価をきちんと支払うという、安心安全な暮らしを自分たちでつくっていく努力が消費者側にも必要なんだと思います。

 このようにして、消費者が人任せにせず、当事者意識を持って本当にいいものを求めて主体的に取り組んで商品選択をしていけば、ウソや不正のあるものは流通・購入されなくなって、自然淘汰(とうた)されていきます。少しずつ、ゆっくりですが、自分にとっても、周りにとっても、そして自然や地球にとっても住みやすい安全な環境へと必ず変わっていくはずです。それが本当の民主主義なのではないかと私は思っています。





(上毛新聞 2008年9月28日掲載)