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元障害福祉サービス事業所ぐんぐん所長 山口 久美(高崎市石原町)



【略歴】日本福祉大卒。約20年、知的障害者の福祉に携わる。2007年3月、高崎市内に自閉症の人たちの自立を支援するためのパン工房とカフェを開設した。



自閉症の文化


◎理解して交流しよう



 職場で同僚に「ちょっと手を貸して」と言われて、ぬっと手を差し出す…。

 コピー機の設定がわからなくなり困っていたら、通りすがりに上司が「頭を使えよ」と一言。後には、一生懸命「頭」でコピー機のボタンを押す男がひとり…。

 「あなたって冷たい人ね」と母が父に言う。びっくりして父をさわって一言「冷たくありません!」…。

 「あー疲れた、足が棒になりそう」。えっ?とびっくりして母のスカートをめくりあげ、足が棒になっていないことを確認…。

 「お友達をぶっちゃだめだよ」。「うん!」と去り際に、けっ飛ばす。彼に言わせれば「俺(おれ)、ぶってないよ」ってことでしょうけれど…。

 「お風呂みてきて~」「みてきたよ~」。数分後、お風呂場からはザーザーとお湯のあふれる音が―。「みていただけじゃだめでしょ!」(え? みてきてって言ったじゃん)…。

 調理中にお客さん。「ちょっとお鍋みてて!」「は~い」。なんだか焦げ臭くない? 台所ではコンロの前でお鍋をじっと見つめる人が…。

 どれも本当の話。全部、自閉症の人たちのエピソードです。なぜこのようなことが、まじめに本当に起きてしまうのでしょう。自閉症の人たちの頭の中はどうなっているのでしょう。第三者として話だけを聞けば、思わず笑ってしまうようなことばかりです。

 でも、一緒に暮らしている家族や、日ごろかかわっている人たちに言わせれば、「一事が万事この調子…」と、あっけにとられたり、イライラしたり…。「そっかぁ、大変ですねぇ」と周囲から同情されるのは、家族や、かかわっている人たちのほう。

 でも、大変なのは自閉症の人たちも同じなんです。

 「世の中の人たちは何で僕(私)たちがびっくりするような比喩(ひゆ)表現(頭を使う、足が棒、冷たい人など)をするんだろう?」「言われた通りにしたのに何で怒られるんだ?」「一生懸命がんばっているのに、ちっともわかってくれない」。そんな声が聞こえてきそうです。

 気持ちのすれ違いは、わだかまりや恨みやあきらめにつながっていきます。「わからないから」「自分とは違うから」と思っていたら、その溝は深く広くなっていくだけです。

 せっかく同じ世界に生まれ暮らしている人間同士です。「ねぇ、あなたたちの頭の中ってどうなってるの?」と、お互いに見せっこ(本当に頭を開いてはいけませんよ!)してみたら、案外、お互いに「なるほどぉ。そうだったのかぁ」って簡単に、結構楽しく、暮らしていけるようになるかもしれませんよ。





(上毛新聞 2008年10月4日掲載)