視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
文筆家 岡田 幸夫(桐生市広沢町)



【略歴】東北大工学部を経て東京三洋電機に入社。2005年に退社、身近な体験を通して、健康、環境、社会、歴史などを考える「晴耕執筆」生活を実践している。



エネルギー消費


◎つましい動物に学ぼう



 植物は葉緑素の働きで、生存に必要なエネルギーを創(つく)り出している。動物は食物を摂取することで生存している。その生存に必要なエネルギーとはどの程度のものなのだろうか。

 日本人は一日あたり熱量約二五〇〇キロカロリーの食物を摂(と)る。食料自給率からすると国内産で供給できるのが一〇〇〇キロカロリーほどである。万一、輸入が途絶えた場合、主食として米からイモなど熱量生産性に優れた作物に転作することで、生存ぎりぎりの二〇〇〇キロカロリーは自給できると試算されている。

 このエネルギー量とは、理科年表を片手に計算すると八・四メガジェール、わかりやすい単位で表現すると一〇〇ワットの電力程度である。これは白熱電球二個、あるいは小型テレビの消費電力に相当する。風呂も沸かせないささやかな熱量である。

 この少ないエネルギーで思考し、行動し、そして労働する。人のエネルギー効率は驚くほど高いものである(もっとも食物は熱量だけでなく、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維などバランスよく摂取しないと健康は保てない)。摂取エネルギーの七割くらいは基礎代謝(体温や生体の維持)のため使われる。単位体重あたりでは若干の補正を加えると、人もゾウもネズミもほとんど変わらない(「ネズミ―ゾウ直線」という。さらに言えば、ネズミもゾウも生涯の呼吸や脈拍数は同じだという)。

 恒温動物よりはるかに効率よく生きているのは変温動物である。彼らは寒いときには活動を停止し、あるいは冬眠して、暖かい適温のときのみに行動する。体温維持にエネルギーを消費しない。体重あたりでみると恒温動物の十分の一程度である。こせこせとせず少ないエサで十分という生き方だ。動物たちは長い進化の過程で、最少のエネルギーで生き抜く術を身につけている。

 一方、現代人は食物のほか、それよりはるかに大量のエネルギーを消費している。ちなみに八月のわが家の使用電力は三四〇キロワットで、料金八千五百円。時間あたりの平均電力は五〇〇ワット弱。このほかにプロパンガス、風呂用太陽熱温水器なども使っている。車のガソリンも加えると、自分の体が消費するエネルギーの十倍くらいになりそうだ。家庭用以外にも産業用や輸送用などに膨大なエネルギーを消費している。

 変温・恒温動物の違いから類推すると、人間社会では生活環境や社会の恒常性維持のために大量のエネルギーが使われている。だが日本のエネルギー自給率は5%以下。二酸化炭素(CO2)削減や社会の永続性のためには、時に動物たちのつましい生き方に学ぶ必要がある。






(上毛新聞 2008年10月11日掲載)