視点 オピニオン21
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東京芸術大美術学部彫刻科教授 深井 隆(東京都板橋区)



【略歴】高崎市出身。東京芸術大美術学部卒、同大大学院修了。1989年、平櫛田中賞受賞。2005年から現職。翼が付いたいすをはじめ、木彫を得意とする。



美術品


◎生活空間楽しむ工夫を


 この一年間「視点」に書かせていただきましたなかで一回目に、美術館へ行きましょう、人生の幅が広がります、と述べさせていただきました。

 今まさに美術の秋です。例えば県立近代美術館では山口薫、同館林美術館では国吉康二の個展が開催中です。どちらも私の大好きな画家です。このところ美術館に足を運んでない人はこの季節、ぜひお出かけになってはいかがでしょう。感動したり、発見したりと新しい出合いがあるかもしれません。あらためてお勧めします。

 さて、今回で最後の話になります。「生活の中に美術を」というテーマで書きたいと思います。

 皆さんは部屋に何か美術品を飾っていますか? 高価な絵画や彫刻を、と言うつもりはありません。もし、部屋には何もそのようなものはないというのであれば、展覧会に行った時にミュージアムショップで気に入った絵葉書(はがき)やポスターを買い、額にでも入れて飾ることから始めてみるとよいと思います。

 昔は床の間がある家も多く、掛け軸と、置物として生け花や工芸品や彫刻を飾ったりしたものでした。ところが現代の家にはこのようなスペースが少なくなり、替わってテレビが部屋の中心になってしまいました。生活を楽しむということを考えますと、テレビを見るなと言うつもりではなく、自身の家の中でもっと空間に喜びを充満させて生活してみようと言いたいのです。

 もっともテレビでもNHKの「美の壺」など日常生活の中で美術品や工芸品を楽しむことを提案している番組もあります。

 私もよく骨董(こっとう)市で日常雑器ではありますが、江戸時代のお皿や碗(わん)を買います。それを毎日の食事のときに現代の器と一緒に使っています。古いお皿が加わっただけで、料理が一ランクおいしく感じられたりするものです。骨董品はその物が歴(へ)てきた時間によって見た人の心を豊かにしてくれます。

 一方、若い美術作家のデッサンや版画などは、それほど高価なものではありません。気に入った作家の作品を飾ることで、自身に活力を与えてくれるような気がします。

 最近流行(はやり)の投機や投資のためなどという心貧しい動機ではなく、ワクワクするもの、心が落ち着くもの、何か引き付けられるものなどとの出合いを大切に求めてみてください。きっと家の中の様子が変化していくと思います。もちろん心の中も…。

 始めなくては、何も変わりません。この秋から、少しずつ気楽に美術を楽しんでみませんか。





(上毛新聞 2008年10月15日掲載)