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群馬森林管理署署長 中岡 茂(前橋市岩神町4丁目)



【略歴】東京教育大(現筑波大)農学部林学科卒。林野庁に入り、東北森林管理局計画部長、独立行政法人森林総合研究所研究管理科長を経て、2007年10月から現職。



林業国防論


◎四万十式作業路に学べ


 四百万、四十万、十万、千五百。この数字の謎解きは、あとのお楽しみとして、日本の未来に暗雲がかかりはじめた。世界経済の混乱が石油などの資源の高騰を招き、資源を海外に依存する日本が危うい。

 唯一木材のみは、薪(まき)や炭から石油・ガス等への燃料革命と、安い外材の輸入によって国内の森林が保護されたかっこうになり、日々蓄積されつつある。ところがこの豊富な木材資源になかなか出番が巡ってこない。

 急峻(きゅうしゅん)な山岳地形に成立する日本の森林は、伐(き)り出すのにコストがかかり、機械の導入を拒む。荒っぽいことをすれば、それが誘因となって山は崩壊し、下流の住民を苦しめる。したがって、骨の折れる山仕事をする人は減り、特に若者の就労は少ない。

 そこに画期的な新技術が登場した。高知県の四万十川流域で開発されたことから四万十式森林作業路と呼ばれている。ここで先ほどの数字であるが、順に高速道路、二車線の山岳道路、林道、そして四万十式森林作業路の工事単価すなわち一メートル当たりの平均的な工事費である。このダントツに安い作業路は、急峻な地形を大きく壊すことなく自然災害に強く、伐採された木を引き出し、丸太をこしらえ、林道や公道に運び出したりする便利な機械を林内に通すことができる。

 何よりも面白いのは、これまで道をつくるときに邪魔者とされていた繊維質の多い表土や木の根っこなどを土留めに使い有効利用したことである。まさに逆転の発想で、コンクリートはまったく必要とせず、早期に緑化し、大幅な単価の縮減はこの技術によってなされた。IC産業だけでなく、林業にもイノベーションはあった。

 日本林業の現状は苦しい。景気の減退は即、住宅着工数の減少につながり、木材需要と木材価格の低迷につながる。何しろ二十年前の半分以下の価格なのだからやってられない。しかし、石油や鉱物にみられる資源の高騰あるいは資源ナショナリズムがいつ何どき木材に及ぶか分からない。現にロシアは木材の輸出関税の大幅引き上げを図りつつあり、その影響で今までロシア産と競合して見向きもされなかった国内産のカラマツが値上がりしている。

 このような状況をみれば、木材輸入ストップといった一朝有事に備えて、あらかじめ四万十式作業路のような自然に優しい道を林内に張り巡らしておくこと(できれば一ヘクタールにつき二百メートル以上)が必要である。山の恵みをいつでも利用でき、自然災害にも強い森林を整備しておくことこそ真の国防ではなかろうか。そうする過程において山村の仕事が増え、若者がもどり、バランスのとれた国土の発展にも寄与できると思うのだ。




(上毛新聞 2008年10月20日掲載)