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管理栄養士 松尾 綾(前橋市石関町)



【略歴】共立女子大家政学部食物栄養学科卒。2004年、草津温泉フットボールクラブに入社。管理栄養士として、ザスパ草津選手の栄養管理を担当している。



サプリメント


◎子供には基本的に不要


 スポーツをする小・中学生の親御さんに栄養の話をすると、よく聞かれる質問のひとつに、子供たちにサプリメントが必要かどうかということがあります。そのような時、私は「基本的に必要ない」と答えます。近ごろはさまざまなサプリメントが出回り、サプリメントについての考え方もいろいろあるかと思います。プロスポーツ選手などで一日に必要な栄養素の量がとても多く食事からの摂取が難しい場合など、どうしても必要な場合もあるかもしれません。しかし、中学生くらいまではなるべく利用は控えた方がよいと考えています。その理由は食習慣の形成にあります。

 九歳から十二歳の時期は、ゴールデンエージと呼ばれ神経系の発達がほぼ完成に近づく時期です。技術の習得は新たな神経回路の形成と一致するので、この時期は技術の習得に適しています。このことは食習慣の形成についても同じで、九歳から十二歳ぐらいまでに形成された食習慣は一生続くともいわれています。よって、この時期までに正しい食習慣を身に付けることは重要です。

 なぜサプリメントが食習慣の形成に関係あるのかというと、サプリメントに頼ってしまうと体に必要な栄養素を食事からとるという習慣がなくなってしまう恐れがあるからです。何かの栄養素の不足が判明した時に、自分の食習慣のどこが良くないために栄養素が不足したのかを考えるということは、食習慣を直す絶好のチャンスだと思います。栄養素不足をサプリメントで解消すればよいという考えは、このチャンスを逃すだけでなく、間違った食習慣を続けるきっかけにもなってしまいます。正しい食習慣が身に付くまでは、サプリメントに頼らずに必要な栄養素を食事から摂取できるよう心がけましょう。

 また、食事の目的は単なる栄養摂取だけではありません。食事を舌で味わったり、目で見たり、臭(にお)いをかいだりして、おいしいと感じること、食事中の会話や雰囲気を楽しむことなどたくさんあります。食事は体の発達に必要なだけでなく、心の発達にも必要です。

 あと、サプリメントとして出回っている栄養素は、食物中に含まれる栄養素のうち現在の科学で解明されているものだけです。食物中に含まれる栄養素には現在の科学で解明されていないものもあるといわれています。サプリメントだけでは食事から摂取される栄養素すべてをまかなうことは不可能です。現在の科学の下では、人間はサプリメントだけでは生きていけないのです。正しい食習慣で心と体の健康を目指しましょう。




(上毛新聞 2008年10月22日掲載)