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動物写真家 小原 玲(名古屋市千種区)



【略歴】前橋高、茨城大卒。動物写真家としてアザラシ、シロクマ、マナティー、ホタルの写真を発表。カナダの流氷で19年の取材歴があり、地球温暖化の目撃者である。



日本の製品


◎失うまい品質の良さ


 中国からの輸入農作物、食料品などの汚染がよく話題になるこのごろだが、同様に日本企業による食品汚染も出現していることを見逃せない。

 昨年、私はテレビ局の取材で無農薬農業の先駆者の田んぼのホタルを取材した。無農薬に戻す前に消えていたヘイケボタルが無農薬を始めて十年かかって水田に戻り、二十年たって昔と同じくらいの数になったという。周囲の田んぼは除草剤を最小限だけ使う低農薬なのだが、無農薬の彼の田んぼだけにホタルは多く集まっていた。ヘイケボタルが少なくなったのは、やはり過剰な農薬だったのだと確信した光景だった。

 食べ物だから「安全」ということばで評価されるが、製品の「品質」の問題であるともいえる。食製品の品質やその管理がおざなりになっているのだ。

 ところで私は前回にも書いたが、夏休みの子どもの自由研究で牛乳パックからの再生紙作りを手伝って以来、紙漉(す)きにはまっている。家族が寝静まった深夜の台所で、和紙原料や再生紙原料などさまざまなパルプを試している。目標は自分の写真をプリントする紙作りだ。

 自分で作ってみると紙作りの面白さも難しさもよく分かる。そして苦労して作った紙にプリントした写真なら、長くその姿を保ってほしい。私は自分なりに紙の酸性度をpH計で測り、原料選びや水質、生産方法などを考えるようになった。図書館で古くなった酸性紙を使っていた書物がボロボロになって、その対策に困っていることを伝え聞いていたからだ。

 そして気づいたのが、市販の中性紙といわれている商品の品質が、実にいい加減であることだ。インクジェット写真用紙の多くは酸性紙なのだが、プロ向けや保存向けに中性紙をうたっているものがある。そのうちの三割ほどは測定してみたら酸性だった。

 さらには写真や絵画を額装する際に使うマットボードは、保存が目的なのに、驚くほど酸性紙が交ざっていた。中性紙とうたいつつ、実際にはそれが片面だけだったり、ギャラリーなどで使われている高級品でも測ってみたら弱酸性だったりした。日本古来の手漉き和紙と比べると、相対的に低い数値がいつも現れる。なので商品説明でうたわれている性能はないと私は思っている。

 かつて日本の製品はその品質の良さが世界に対する誇りだった。日本製品の品質の良さが、日本人への評価の良さに繋(つな)がり、日本人だというだけで海外で信用されたものだ。ところが中国製品のみならず日本製品の品質が落ちていることを危き ぐ惧する。信頼は一度失うと取り戻すのにかかる時間が膨大である。失う前になんとかすべき時に来ているように思える。



(上毛新聞 2008年10月26日掲載)