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渋川総合病院長 横江 隆夫(前橋市上小出町)



【略歴】東京都出身。群馬大医学部卒。同大医学部附属病院助教授(救急部)などを経て、2002年から国立渋川病院長、03年から現職。専門は外科。




移植医療


◎ドナーカードの普及を


 臓器移植法案が施行されて久しいですが、世界的に見て日本の脳死患者からの臓器移植症例はまだわずかです。脳死に対する理解や、ドナーカードの普及が進んでいないことも原因の一つと思われます。

 脳死状態でも脊髄(せきずい)反射が残っていると、手や足を動かすことがあり、涙が出ることもあります。かつて新聞に「脳死判定されたのに、まだ手や足を動かしているので脳死ではないのではないか」という読者の投稿がありました。報道記事自体にも同様の記載があり、この点を誤解している人もまだいます。

 以前、脳低温療法が話題になりました。しかし、外傷などの直後から脳を低温状態にして保護するので、その状態で脳死判定はできず、この治療法が脳死患者を回復させるわけでもありません。

 脳死と判定された場合、ほとんどの患者さんは十四日以内に心臓死に至ります。

 脳死は、植物状態とは全く異なります。植物状態は、大脳皮質の全体的な障害・破壊により、運動・感覚障害があり、精神活動にも大きな障害があるか欠如している状態で、呼吸・心臓の機能は正常です。一方、脳死は、呼吸など生きる上での最低の機能を司(つかさど)る脳幹の機能が不可逆的に消失した状態です。

 日本の法律では、脳死断定には深昏睡(こんすい)、自発呼吸の消失、瞳孔散大、脳幹反射の消失など厳しい判定基準があります。判定は一回行った後、六時間以降に再度行い、基準が満たされていれば脳死が確定します。判定間隔は、検査内容が異なるため国によって二十五分―二十四時間と異なります。いずれの国でも脳幹機能消失の確認が基本的に重要な判定基準になっています。

 乳幼児の場合、判定は難しいため、米国では脳血流検査を必須とし、判定の間隔を二十四―四十八時間としています。日本の判定基準では小児は除外されていますので、特別の判定基準を作るなど早急な検討が必要と思われます。

 外国で移植医療を受ける日本人たちを応援する新聞記事もあり、募金に協力する多くの人たちがいます。しかし、諸外国でも移植を待つ患者さんの数は増加しています。日本人が外国で移植を受ければ、その国の移植希望患者の待機順位が下がり、待機中に死亡することもあり得ます。好意的に開かれている外国人枠に恩恵を授かっている日本人に対する風当たりも強くなってきています。

 最近、運転免許証に張るドナー意思表示シールが認可され、私も早速張りました。小児に対する移植医療への道が早く開けることと、ドナーカードが普及し、諸外国と同様に移植医療が普通の医療になることを願っています。




(上毛新聞 2008年11月8日掲載)