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元障害福祉サービス事業所ぐんぐん所長 山口 久美(高崎市石原町)



【略歴】日本福祉大卒。約20年、知的障害者の福祉に携わる。2007年3月、高崎市内に自閉症の人たちの自立を支援するためのパン工房とカフェを開設した。



自閉症・発達障害


◎理解し悲劇防ごう



 母親が加害者となり、わが子に手をかけるという事件を聞くたびに、ドキッとします。そのような事件の中には、子どもに障害があったということが少なからずあり…そのことでまたドキッとします。

 こんな悲しく切ないニュースは、聞きたくないと思います。でもその一方で、社会の一員として、なぜこのような事件が後を絶たないのか、を考える責任はないだろうか?とも思います。

 ひとつの命を不当に消す、ということは、どんな理由があれ、許されることではないと思います。

 でも…障害福祉にかかわる者として、そして、五歳の子どもを持つ母親として、自分の子どもを殺さなくてはならない状況にまで追い込まれてしまったお母さんのことを想(おも)うと、胸をえぐられるような切なさを感じます。

 「社会性」と「コミュニケーション」という、人として当然身につけているべきもの。障害がなければ、当たり前に、自然に身についていっているように見える、このふたつのことを、自閉症・発達障害圏の子どもたちは、『自然に』は身につけることができません。

 親や周囲の人たちも、自閉症あるいは発達障害ということについての正しい理解がなければ、その子どもたちに「社会性」と「コミュニケーション」を教えてあげることはできません。

 非常識な子、衝動的で乱暴な子、人の話を聞かない子、ほかの子と仲良く遊べない子…。その原因が、「障害」にあるということを理解するには、私たちの社会はまだまだ未熟です。

 なぜなら、自閉症・発達障害という障害は、実はまだとても「新しい」障害で、その理解とバリアフリーは、全くと言っていいほど広まっていないからです。

 ヘンな子、こわい子と思われ、一緒に遊んでもらえない子ども。

 しつけのできない親、いつも責められ謝り続けなければならない親、家に帰っても言うことを聞いてくれない子ども、家族からも責められ…誰に相談することもできずひとり追い込まれていくお母さん…。

 もし、子どもの障害に気づき、必要な支援をさしのべる専門家(医療、療育、保育、教育、福祉などの関係者)が近くにいたら…。

 「お母さん、大丈夫? 一緒にがんばろう」と一言声をかけてくれる仲間がいたら…。もしかしたら、防げたかもしれない事件。

 どうぞ、人ごととしてではなく、考えてみてください。

 かけがえのない、大切な命を、大事に育てていける社会を、つくっているのは、私たちひとりひとりなのだから。






(上毛新聞 2008年11月13日掲載)