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東京福祉大・大学院教授 栗原 久(前橋市昭和町)



【略歴】群馬大大学院工学研究科応用化学専攻修士課程修了。同大医学部助手、同助教授、和漢薬研究所を経て現職。専門は薬理学。著書に『カフェインの科学』など。



健康情報


◎正しい知識を持とう



 二〇〇七年における日本人の平均寿命は、男性七九・一八年、女性八五・九九年で、世界でトップクラスにランクされる。その背景には、医薬品の開発や医療技術の向上に加えて、栄養状態の改善があったことは間違いない。一方、平均寿命の延長は老化についての新たな問題を引き起こすことになった。多くの人々が老化に伴う生体機能の低下に直面し、いつまでも若々しく健康でいたいと願うようになった。人は衣食住が満たされると、次に興味を示すのが健康である。

 快食・快眠といわれるように、食生活の良しあしが健康に多大の影響を及ぼすことは事実で、健康増進に役立つ飲食物に関心を持つのは当然のことである。近年、セルフメディケーションが強調され、厚生労働省(旧厚生省)は一九九一年から特定保健用食品(トクホ)の表示を許可し、今年九月十七日現在、七百九十六品目が認定されている。

 しかし、飲食物の健康効果に対する関心が過剰になると、特定品目を取り上げて健康に「良い」「悪い」の判定を下す傾向が強まる。ある時は健康に良いとされたものでさえ、一瞬のうちに立場が逆転して健康に悪いと評価されることがあり、その逆も起こりうる。

 書店には健康やダイエット情報を満載した本や雑誌が山積みされ、日常的に摂取されている食品の悪影響を強調する本も多数出版されて、いずれも高い販売部数となっている。健康を取り扱ったテレビ番組の視聴率はいつも高く、健康に良い、あるいはダイエットに有効と番組中で紹介された食品を人々がこぞって買いに走り、スーパーマーケットの棚から消えてしまうという社会現象が、毎年のように繰り返されている。新聞の折り込み広告の多くも、健康増進やダイエットに有効とされる食品(サプリメント)の宣伝で占められている。しかし、一年もたたないうちにブームは去り、忘れ去られてしまうのである。

 人々は、なぜこれほどまでにメディアから流される健康情報に右往左往する状況を繰り返するのだろうか。それは、健康に関心を持っているものの、身体の仕組みや働き、飲食物の摂取後の消化・吸収・代謝・排はい泄せつ、身体に及ぼす影響などについて十分理解しておらず、情報を鵜う呑のみにしているためである。メディアを介して提供される情報はすべて正しいように思いがちであるが、効能についての科学的検証が不備であるものや、効能を強調しすぎている例が少なくない。誤った健康情報に振り回されないためには、個人個人が正しい知識を持つことが必要である。






(上毛新聞 2008年11月24日掲載)