視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
明正会認知症ケア研究所長 福島 富和(富士見村小暮)



【略歴】県立高齢者介護総合センター所長を務め、現在、医療法人社団明正会認知症ケア研究所長。ぐんま認知症アカデミー幹事、日本認知症ケア学会評議員。



高齢者介護


◎自己実現できる仕事



 このところ、全国から認知症ケアや施設開設者などにかかわる研修を依頼されることがある。その折、最初に「概(おおむ)ねですが、日本の総人口はどれぐらいですか」と質問する。続いて高齢化率、高齢者人口、要介護者数を聞いてみる。総人口一億二千七百七十七万人、高齢化率20%、高齢者人口二千五百六十万人、要介護者数四百万人である。

 次に、「四十年後の日本の姿を想像してみてください」と言う。今の若者が、高齢者の入り口に立つ時代の姿である。総じて、答えられる研修生はいない。ほとんどの反応は、困ったなという表情である。そこで反省する。この質問は意地悪なのだろうか。いや違う。本気で将来を模索したいのだ。

 生活者なら誰でも感じている。将来、介護が必要になった時、子どもたちに面倒を見てほしいのだろうか。見てほしくもないし、見てはくれないだろう―と。地域社会は本当に「福祉社会」をつくってゆけるのだろうか。医療保険は大丈夫だろうか。年金はどうか。いずれも実感レベルとしては「どうなるのだろう?」という疑問形の気持ちが残るのではないだろうか。

 そんな折、サブプライム(低所得者向け高金利住宅ローン)問題に端を発した、世界の金融システム自体が危ないというニュースが入ってきた。このような事態は、私たちほとんどの日本人にとって経験がない。ますます将来を悲観したくなる。しかし、発想を変えてみよう。ピンチをチャンスにするのである。かつて人類は数々の危機を乗り越えてきた。もちろん犠牲は限りなくあったであろう。しかし、そこで英知を発揮してきたのだ。われわれも知恵を絞り出さなくてはならない。覚悟も必要だ。

 超高齢化社会を迎え、介護の仕事は効率化を求められるであろうが、無くなることなどあり得ない。長寿は人類が夢見た社会である。その高齢者の生活を支える仕事である。介護者が自分の頭で考え、工夫を重ね、力を合わせることにより、そこで生活している人々にダイレクトに喜んでいただける仕事である。そして、利用者の喜びは、介護者の「やる気」を刺激してくれる。難しい言葉であるが、「自己実現」が可能な職種なのである。いまどき、余人をもって代えがたしとされる仕事ができることは恵まれているのである。

 課題はたくさんある。人材不足とその育成である。緊急避難的に外国人介護者も導入されているが、われわれが考えている以上に宗教観・価値観の違いは大きい。短期的にも長期的にも人材育成こそ、最重要課題である。





(上毛新聞 2008年11月29日掲載)