視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
特定非営利活動法人エコライフ理事長 石関 和泰(下仁田町大桑原)



【略歴】宇都宮大大学院修士課程(農学専攻)修了。国際農業者交流協会欧州支部長などを経て、下仁田町の日台農業振興会で業務部長。



地域振興



◎子供や社会のために



 旧聞になりますが、ドイツでは五十年近く前から村の発展のため、地域における文化、社会、経済、構造物や自然景観等に対する住民の活動内容を評価するコンテストが行われています。日本では「わが村を美しく」運動として紹介されていますので、ご存じの方も多いと思われます。

 それが近年、名称が「わが村には未来がある」に改められました。これは村の発展性と、市民参加の要素をより重視したためで、それだけ将来に対する明確なビジョンと、それを支える住民の力を求めたものといえるでしょう。このことは地域振興を考えた場合、非常に示唆に富んでいると思います。というのは、餅(もち)の絵を描くよりも、実際にそれを作り続けることの方がはるかに大変だからです。

 ここで当NPOエコライフの活動の一端を紹介させていただきます。本会は、岩崎正春前理事長と下仁田町平原地区の方々を中心として、途絶えて三十年近くなる手もみのお茶を復活させました。

 手もみのお茶作りには一酸化炭素を出さず、完全燃焼する良質の白炭が必要だとのことで、石を積み上げ白炭窯作りから始めました。また、お茶をいる焙炉(ほいろ)も地域に産する礫(れき)混じりの土を農具で砕いて粘土にし、それを用いて作りました。

 お茶は畑の脇に垣根状に植えられ、農薬も使わず栽培されています。子供たちに体験させるため、新芽が伸びる五月末の土曜日に茶摘みをし、翌日手もみのお茶を作ります。

 この事業は二〇〇六年度から〇八年度まで、県の「文化の芽」支援事業としていただきました。また、デンマーク、ドイツ、スイス、オランダの各大使館関係者もこの事業に対する関心は高く、〇七年度はドイツ大使館農務官が事業に参加してくださいました。

 これは地域の伝統文化を掘り起こしたものですが、その一方で私たちはこの地域の自然にも着目しました。そして地域の自然環境の調査を行いながら、子供たちを対象に自然観察会を開催してきました。調査は現在まで地質、地形、植物、土壌、水生昆虫、蝶(ちょう)、鳥類、哺乳(ほにゅう)類について行いましたが、その結果、この地域は自然を勉強するのに適しており、地域自然博物館(箱ものではなく、実際の自然が展示物)とでもいうべき内容を備えていることがわかりました。

 これらはあくまでも地域を見直した事例であり、各地域にそれぞれの魅力があることは論を待たないのですが、私たちの活動の特徴は、子供たちのため、地域のため、社会のためにあることです。もしこれらが自分たちのためでしたら、事業を継続することは難しいでしょう。紙面がつきてしまいましたが、地域振興を考えた場合、このことはキーワードの一つになると思います。





(上毛新聞 2008年12月12日掲載)