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北越製紙研究所主幹 清水 義明(新潟県長岡市)



【略歴】高崎市出身。高崎高卒。東北大工学部資源工学科卒。同大学院修士課程修了。1979年から北越製紙勤務。現在、同社研究所研究員。紙パルプ技術協会会員。



研究開発



◎“後追い”から創造へ



 「独創とは、先人からの剽窃(ひょうせつ)である」。イギリスの詩人、T・S・エリオットの至言です。平たく言えば「すべては先人の模倣から始まる」といったところでしょうか。最初は模倣であっても、それが少しでも進歩していればれっきとした創造といえるでしょう。

 世の中に存在しなかったものを発明、発見しても、社会で認めてもらえなければ意味がありません。これらは一般に特許、もっと堅苦しい言葉を使えば知的所有権と呼ばれています。研究開発によって新製品を生みだす上で、その権利を確保するためには必要不可欠です。特許では、出願された案件が新しい技術か(新規性)、あるいは容易に考え出せない技術か(進歩性)―についてが評価の基準になるようです。

 私がかかわっている紙パルプ分野の特許は、既存製品の改良特許がほとんどを占めています。最先端の技術開発には遠く及びませんが、それでも製品を作り上げ、特許化するには数年を要することもあります。

 紙の厚さが同じで密度が通常より二―三割低い、嵩高紙(かさだかし)という紙を他社が開発し、脚光を浴びたことがありました。軽さが注目されたわけです。この時、自社ではこの種の紙は製品化されていませんでした。完全な後追い研究です。

 この紙を製品化すべく、社内でプロジェクトチームを結成。先行する特許や他社製品の分析調査、処方の検討、開発スケジュールなどを決めました。目標はもちろん、他社より優位な品質か、または異なる製造方法を確立すること。技術的課題は、密度を下げると紙の強度が弱くなるので、これをいかに抑えるか。開発の鍵は先行技術をもれなく集め、忠実にトレースしてみることに尽きます。多くの繰り返しの中から新しい発見が生まれます。

 このプロジェクトは、目標数値をクリアして製品化することができました。これは、改良特許の製品化ですが、少なくとも、それまでその企業に存在しなかった製品を作り出すという点では大きな進歩です。

 和歌の表現技法に「本歌取り」があります。「盗用」「パクリ」などと混同されがちですが、本歌取りは先人の残した著名な歌をベースにして、別のテーマで詠むこと。新古今和歌集には多いようです。人口に膾炙(かいしゃ)している本歌を取り入れることで、効果が重層化されます。

 研究開発はたとえ改良発明であっても、先行技術と比べて違いがあれば、新規性があるとされますが、その違いがわずかなら進歩性は認められません。つくり方の違いや品質の差異が大きな要素になります。




(上毛新聞 2008年12月18日掲載)