視点 オピニオン21
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ピアニスト 澤田 まゆみ(高崎市箕郷町)



【略歴】東京芸大、ドイツ国立リューベック音大卒。東京芸大大学院修了。2006年から新島学園短大専任講師。07年、上毛芸術文化賞受賞。ぐんま日独協会、群馬音楽協会理事。



音を楽しむ



◎生活見つめ直すことに



 皆さんは普段どのように「音楽」と接し、どのようにかかわっていらっしゃいますか。そのスタイルはさまざまでしょうが、メディアの発達で世界中のどんな音楽でも楽しめるようになった現在、学校教育の中でも西洋クラシック音楽に限らずジャズやポピュラー音楽、シャンソンや民謡、近年では演歌まで、幅広いジャンルの音楽が取り入れられています。また、幼稚園や保育園においても和太鼓が盛んに行われるなど、日本の音楽を見直す動きが顕著になってきました。こうした状況の中、今後、私たちの音楽文化はどのようになっていくのでしょうか。

 もともと和歌をよみ、笛を吹き、鐘を鳴らしていた私たちは、遣隋使、遣唐使の時代には韓国や中国大陸、インド起源の音楽も取り入れ、また、この時期に伝えられた中央アジアや西アジア地域の音楽が「雅楽」につながったといわれています。邦楽の楽器の王様と称され、江戸時代の文化に欠かせなかった三味線も、元来大陸から沖縄を経て伝わったものであり、こう見てくると、私たちは現代に限らず、古くから外来の音楽とともに自国の音楽文化を培ってきたといえます。明治以降は皆さんご存じのとおり、遠いアメリカやヨーロッパの音楽が盛んに取り入れられ、音楽に限らず衣食住その他、多くの文化を世界各国から取り入れつつ生活しています。

 今、私が縁あってとりくんでいる幼児教育の中に「表現」という領域があります。ここでは、小学校以降に授業で行われる「音楽」の教科教育とは幾分異なり、「生活」の中でさまざまな音を感じ、美しいものや心を動かす出来事にふれることが重視されています。実際子どもたちは、鳥や虫、風など自然の音、時計や車、機械の音など、身のまわりのあらゆる音にとても敏感で、その音からさまざまにイメージを膨らませて歌をうたったり、リズムをとったりなどして楽しんでいます。

 「生活」そのものが世界中の物や音にあふれている現在、もし、私たちが既成の「音楽」やメディアをとおしてだけではなく、子どもたちのように、身のまわりにあるさまざまな音にも耳を傾け、心を動かす音たちに出合い、楽しんでいくことができたらどうでしょう。きっと一人一人の「音」の「楽」しみ方が広がるのと同時に、それは私たちの「生活」自体を見つめ直すことにつながり、私たちの音楽文化の方向の一端が垣間見られるのではないか、などと考えるこのごろです。



(上毛新聞 2008年12月19日掲載)