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尾瀬保護財団企画課主任 安類 智仁(渋川市金井)



【略歴】】玉川大農学部卒。第3次尾瀬総合学術調査団員を経て、尾瀬保護財団に勤務。2008年度は尾瀬沼ビジターセンター(福島県桧枝岐村)の統括責任者も務めている。



“尾瀬”を学ぶ



◎働く人々の眼を通して



 尾瀬は二〇〇七年八月三十日に日光国立公園から分離独立し、自然環境、文化、伝統などでつながりの深い会津駒ケ岳や田代山、帝釈山周辺を取り込み、全国で二十九番目となる尾瀬国立公園として誕生しました。二十一世紀最初の国立公園となった尾瀬は、これまで多くの開発の危機にさらされながらも、その美しさや貴重さに気付いた方々によって守られ、今では貴重な生態系・風景とならび、「自然保護の原点」として、自然と人のあるべき姿を学ぶ場の役割を担っています。

 尾瀬を学ぶ機会は県内に数多くあり、現地ではビジターセンターの展示や観察会、山小屋の夜のレクチャー、自然ガイドの引率などが行われ、尾瀬外でも県立自然史博物館や沼田市立図書館、上毛かるたなど至る所で“尾瀬”を見かけます。また今年からは県内の小中学生が一度は尾瀬を訪れ、優れた景観や貴重な生態系、自然保護の意義や歴史を学ぶことを目的とした「尾瀬学校」がスタートし、ますますその機会は増えています。一方でそれぞれの機会がより充実した尾瀬学習へ繋(つな)がるよう、受け入れ側にも多くのことが求められます。「視点」ではビジターセンター職員として尾瀬に住む私が、多くの登山者や尾瀬で働く人々との交流を紹介しながら、尾瀬学習充実のヒントを探りたいと考えています。

 こんな紹介を考えたのは、別々に出会った二人の方との交流がきっかけです。一人は米国人で、国際協力の一環で尾瀬に来た際にガイドしたときのこと。ガイドといえば、おのずと話題は尾瀬の美しさや貴重さが中心ですが、あまり満足していない雰囲気が感じられ、山小屋の談話室で思い切って訪ねると、「尾瀬の素晴らしさはその場にいるだけで感じられる。いつも尾瀬と接しているガイドからは、ガイド自身が尾瀬から感じ取ったことをストーリーテリング(語り聞かせ)してほしい」と言われました。その方が花の名前などの表面的な尾瀬の姿ではなく、尾瀬と人とのつながりの本質を、ガイドの眼めを通して知りたがっているのだと分かったのでした。

 もう一人は山小屋のご主人で、そこに高校生をガイドし、その方と私との対談を聞いてもらうイベントのときのこと。小屋にはお風呂が無く、自家発電のために午後九時には電気が使えなくなることを知った高校生たちが、「こんな不便な場所になぜ住んでいるのか?」と質問したところ、ご主人は尾瀬で生まれ育った思い出話をいくつか紹介しながら、「だから好きで住んでいる。みんなとも出会えたしね」と話を結び、高校生の疑問を解くだけでなく、尾瀬で働く人々の眼を通して、価値ある尾瀬の姿を伝えられたと感じました。次回からはそんな尾瀬を観みる眼を紹介します。



(上毛新聞 2008年12月26日掲載)