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県臓器移植コーディネーター  稲葉 伸之(館林市大島町)



【略歴】】新日本臨床検査技師学校卒。千葉県内の病院に勤務後、青年海外協力隊に参加。帰国後、県立がんセンターを経て総合太田病院ME課(臨床工学)に勤務。


業務内容


◎24時間365日の対応



 一九九七年十月十六日に臓器の移植に関する法律が施行され、臓器提供や移植にかかわる調整を行う臓器移植コーディネーターは、当時、新聞やテレビといったマスメディアで取り上げられたが、法律の施行から十一年が経過した現在、その業務内容はあまり知られていない。

 現在、家族に中立な立場で臓器提供の説明、いわゆるインフォームドコンセントを行い、臓器提供にかかわる承諾手続きを行うことのできる臓器移植コーディネーターは、全国に七十一人が活動しているが、その内訳は、日本臓器移植ネットワークに二十一人、各都道府県に五十人設置されて、本県には一人が設置されている。職種的には看護師、薬剤師、臨床検査技師、臨床工学技士などの医療資格者や四年制大学卒業の者となっており、国家資格としてはまだ制定されていないが、国内唯一の臓器あっせん免許を持つ日本臓器移植ネットワークからの委嘱を受けての業務である。都道府県が設置者ではあるが、雇用体系も各都道府県でさまざまで、専任でなく病院業務との兼任者も多い。

 臓器移植コーディネーターは二十四時間、三百六十五日の対応で、日ごろは県内の病院を訪問し、医師や看護師と情報交換を行っての普及啓発、各会での講演や講義などを行っているが、臓器提供時の対応が主な業務である。

 臓器提供に関する連絡があれば病院に急行して主治医と打ち合わせを行ったのち、家族と面会して臓器提供にかかわるインフォームドコンセントを行い、本人ならびに家族の臓器提供の意思を慎重に確認する。ときには十分な時間をかけて家族に考えてもらい、不安な家族に対しては病院のスタッフとともに相談に応じながら対応し、家族の総意で承諾書を作成する。提供病院の主治医、病棟や手術室担当の看護師などとの打ち合わせや、日本臓器移植ネットワークとの連絡確認を行いながら、臓器提供にかかわるいろいろな調整を行っている。中でも、移植を受ける患者の選定や移植の意思確認、摘出手術を担当する医師の派遣や摘出手術、血液や臓器搬送の調整は重要な業務である。提供家族へは移植経過や移植された患者の状況も報告し、移植を受けた患者からのサンクスレター(礼状)を届けることもある。

 臓器移植コーディネーターは、脳死下の対応では二―三日ほとんど睡眠が取れないし、心停止下の提供では数十日に及ぶこともある、体力の必要な仕事である。つらいときもある。

 しかし、元気になった移植患者の経過を提供家族に報告に行くと、なぜか家族から元気をもらえる気がする。天国のドナーさんが、きっと残された家族やわれわれを見守っている、と思うからである。



(上毛新聞 2009年1月10日掲載)