視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
商工中金前橋支店長  三室 一也(前橋市千代田町)



【略歴】】東京都出身。東京大卒。現在、商工中金前橋支店長。主著に身近な話題を掘り下げて考える親子の会話をつづった『親と子の[よのなか]科』(ちくま新書)がある。


顧客の眼差し


◎知れば惹きつける力へ



 群馬に単身赴任中の中年サラリーマンである。愛する家族が居る東京に少なくとも月一回は帰るようにしている。日曜の夜に群馬に戻ってくるのだが、月曜からの食材を揃(そろ)えるためスーパーに寄ってから住まいに向かうのが常である。

 ある日曜夜のこと。その日も食材を載せたカートを押しながらレジに並んだ。待ち時間を持て余しながら、ボーっとレジ横にある陳列棚を見ていると、うっ…勝手に手が動きピーナツチョコを取り出しカートに積んでしまった…。

 考えてみれば不思議な店のレイアウトである。買い物の目的が終わったからレジに並ぶ、にもかかわらず、そこにまだ商品の陳列棚があるのだから。でも確かにレジに並ぶ人の眼差(まなざ)しは、少なくとも待ち時間の間、そこにある陳列棚に向かう。顧客の眼差しがどこに向かっているかを考え抜いた末の棚の配置なのだろう。そのせいで私は甘いものをつい買ってしまう(と自分の意志の弱さを棚に上げる)。

 棚の一番下に、幼児用のおもちゃなんぞが置いてあるスーパーもある。これも幼児の眼差しはどこに向かっているかを想像した結果なのだろう。

 こんな話を某雑誌で読んだことがある。

 病院の緊急治療室(ER)の新たなデザインを依頼されたあるデザイン会社。まずは、患者の体験を理解するために患者の頭部にカメラを取りつけて、緊急治療室で過ごすとはどういう経験なのかを記録してその映像を見た。十時間に及ぶ録画の殆(ほとん)どが天井しか写っていなかった。患者の眼差しは殆どの時間、天井に向かっているのだ。そこでこの会社は天井のデザインを見直すことに決めた。

 もう一つは聞いた話。

 ある公共交通機関の乗り物の客席シートを作っている会社。どこに一番神経を使っているか。背もたれの後部、だそうだ。後ろのお客さんは乗っている数時間そこを見ているのである。模様の継ぎ目が不自然にならないよう細心の注意を払うそうである。

 顧客の眼差しが向かう先はどこか。結構意外なところに向かっていることがある。それが分かっているか否かでは顧客を惹(ひ)きつける工夫という点で雲泥の差があろう。

 さて、群馬に観光で来る人、退職後の終(つい)の住処(すみか)を探しに来る人、工場用地を探しに来る人、こうしたソトの人たちの眼差しは群馬のどんな点に向かっているのだろうか。群馬の方々が気づいていない、意外なところにその眼差しは向かっているのかもしれない。

 あらためて言う。そこが分かっているか否かで顧客を惹きつける力の差が生まれる。





(上毛新聞 2009年1月17日掲載)