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臨床美術士  高庭 多江子(伊勢崎市今泉町)



【略歴】】伊勢崎市内の特別養護老人ホームに14年間勤務。2003年から臨床美術を学び習得。現在も月2回東京で受講しながら、ボランティアでお年寄りに指導を続けている。


高齢者とアート


◎創作通し自分の発見へ



 昨年十一月、アートセラピーをしているお年寄りの施設で文化祭があった。地域の方々に向けた、現在の高齢者福祉や介護情勢にあわせた内容で、参考になるように企画され施設を開放するものであった。ケアハウスの廊下の壁面にはこれまでのアート作品がかざってあり、お年寄りは見に来てくれるお客さまに得意気に制作の過程を話されていた。第三者とのコミュニケーションが成立し、社会参加されているのである。自分の作品に自信を持ち、自分の意思で発言することは大切なことで、アートが介在することによって地域の方々との交流ができ、生活の活性化につながっていくのである。

 「人から認められたい」という気持ちは、「褒められたい」と同様に年齢には関係なく誰の心にもあるもの。一般的に高齢者は今という時代に疎くなっている。しかし、過去にばかり執着し、現在に興味がないということではない。新しいことには私たちと同じように好奇心旺盛である。その気持ちや感情を大切にして、今この時代を生きているという実感を持ってほしいのである。

 ヘルパーのスキルアップのための施設内研修で、心を癒やしケアするアートセラピーをおこなっている。今回は紙粘土を使い「にんにくを作る」立体創作で、見慣れたニンニクを眺めてその独特の形、構造の面白さを感じながら造形し、紙粘土の感触も心地よく楽しむというもの。日ごろ、時間に追われて忙しく業務をこなしながらも、常に優しい笑顔と思いやりある気配りを忘れず、暑い夏も、寒い冬も、お年寄りの生活を守り援助しているヘルパーに、時間を忘れ熱中し、満足のいく作品を制作してもらう。

 統計的に日本人の七割は絵を描くことが苦手だが、半面、絵を鑑賞するのは好きな人が七割だ。日常的な生活の中に、非日常的な時間をつくり、心を癒やせる空間をつくるひとつの方法がアートセラピーで、普段とは違う自分自身を発見し、素適(すてき)に日々を過ごし、明日への活力に結びつけることができればと思う。ヘルパーの感想は、「子供のころの紙粘土と違う」「ニンニクを分解して制作するとは考えなかった」「ニンニクは大好きだけど、ここまでじっくり見たことはなかった」「何も考えずニンニクを作ることに真剣に集中できた」などだった。

 その後、業務に戻っていく姿に、介護もアートセラピーも常にお年寄りの状況を「五感」で判断し、気持ちに寄り添い、感情を大切にし、共感することだと思った。お年寄りにとって今の時代を実感してもらうことは、新しい自分を発見し、やればできるという勇気を持ってもらうことなのだ。




(上毛新聞 2009年1月21日掲載)