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拓殖大政経学部准教授  茂木 創(東京都文京区)



【略歴】】太田市出身。慶応大大学院修了。専門は国際経済学。2006年に財務省派遣の中国社会科学院客員研究員を務める。日本マクロエンジニアリング学会理事。


麻生内閣の経済対策


◎子孫に問題負わすな



 未曾有の経済危機の中、麻生内閣は「安心実現のための緊急総合対策」(約一一・五兆円)、「生活対策」(約二六・九兆円)、そして、「生活防衛のための緊急対策」(約三七兆円)という、計七五兆円超の経済政策を実施すると述べた。うち、財政措置は約一二兆円程度、金融措置は約六三兆円程度になる見込みである。

 一二兆円という金額。数万円程度の支出をするのにあれこれ思案するわれわれの生活感覚からすると、その規模の大きさを理解するのはなかなか難しい。しかし、税収の約24%、一般会計歳入の約14%、〇七年のわが国の名目国内総生産(GDP)の約2%というと、その規模の大きさに驚かれるだろう。

 不況の折に市場に公的資金を注入し、経済の蘇生(そせい)を試みようとする政策は、世界大恐慌以降、伝統的に用いられてきた処方箋(せん)である。今回の政策についてはさまざまな意見があろうが、二つの問題を指摘しておきたい。

 まず一つは、この程度の財政支出で経済の浮揚効果が期待できるのか、という問題である。生活・雇用支援対策を掲げているが、具体性に乏しい。非正規雇用の解雇が問題になっているが、問題の本質は、解雇そのものにあるのではない。むしろ問題は、非正規雇用者の多くが二十五歳から三十四歳の「(ポスト)団塊ジュニア世代」と呼ばれている世代であるという点にある。この世代の非正規雇用はこの五年間で三倍以上と急速に増加した。この世代が安心して就業できないような社会に、技術立国日本の未来はない。

 第二の問題はその財源である。麻生総理大臣は、この一連の対策の財源として、先月十二日の記者会見において、「赤字公債に依存しない」で、「雇用保険特別会計の活用とか、また、財政投融資特別会計の金利変動準備金の活用などを考えている」という旨の発言を行った。国債に依存しないという点で評価できる。

 日本の国債発行残高が八〇〇兆円を超えた今、大事なことは、現在のツケを将来に回してはいけないということである。現在の痛みから逃れるために、未来が犠牲になってよい道理はない。孫に美田は残せなくとも、希望に満ちた将来を残したい。

 昨今、「政策のターゲットをどこにおくか」という議論があまりに少なく、心もとない。万人受けを狙った政策が成功したためしはない。

 すべての資源は有限である。不況になれば誰かが痛みを負う。その痛みを和らげる処方箋をどう描くのか。少なくとも、同じ世代に生きる人類が直面した問題を、われらの子孫に押し付けてはならない。




(上毛新聞 2009年1月22日掲載)