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弁護士  上野 俊夫(館林市本町)



【略歴】】中央大第二経済学部卒。2002年、司法試験合格。都内の実家を離れ、母のふるさと群馬の法律事務所に入所。08年4月、司法過疎解消を目指し、館林市で開業。



刑事弁護



◎重大犯罪ほど積極的に



 「凶悪犯罪の弁護をするのは嫌でしょう?」とよく聞かれる。このような質問には、「自分が弁護士だったら殺人などの凶悪犯罪の弁護をするのは嫌だ」という気持ちが見受けられる。

 私は四年ほど前、前橋で起きた強盗殺人の弁護をした。その事件はまさに凶悪犯罪といえ、サラ金への返済に困っていた会社員が、老女の家に押し入って老女を殺害し、キャッシュカードを奪って金銭を引き出した、というものである。逮捕された会社員は、犯行を大筋で認めたが、一つだけ言い分があった。その言い分は、もともと殺そうと思って押し入ったわけではない、というものであった。検察官は、それを信用せず、「被告人は殺害目的で押し入った」として起訴し、裁判が始まった。

 私は、被告人の言い分を信じて、法廷で主張し、それが裁判の争点となった。当時、大々的に報道されている事件だったから、傍聴席は遺族、事件関係者、マスコミ陣などで埋まっていた。無念な思いで裁判を傍聴している遺族の目の前で、私は、表面上淡々と、被告人の言い分を裏付けるための証拠提出などを行った。遺族は、傍聴席で身をこわばらせ、私にきつい視線を向けていた。私が被告人に質問をして発言させる場面では、法廷にいる全員が私を非難の目で見ているというような気持ちになった。

 何回かの裁判の後、判決となった。裁判所は被告人の言い分を認めたものの、検察官の求刑通り無期懲役とした。

 遺族の気持ちを考えると私にとってもつらい裁判であったことは確かだが、だからといって、嫌々弁護人をやっていたわけではない。ある人が刑事裁判を綱引きに例えた。検察官が片方の綱を持っており、その綱を引く。それにより裁判官の目は有罪、厳罰の方に向かう。他方で、被告人側の綱を引く人がいなかったら、裁判官の目は有罪、厳罰の方を向いたままだ。「それでいいのだ」という人もいるかもしれないが、どんなにひどい犯罪をしたとされる被告人であっても、その罪は適正な手続きを経た上で裁かれるべきである。一方的な裁判であったら、じきに国民は裁判を信頼しなくなるだろう。そこで、法は弁護人に被告人側の綱を引かせることとした。

 重大犯罪になればなるほど、検察官は強い力で綱を引く。とすると、裁判所が第三者機関として公平に判断できるようにするためには、弁護人も綱を強く引かなければならない。つまり、重大事件になればなるほど刑事弁護の重要性も高まるといえる。だから、凶悪犯罪をしたからといって、被告人の弁護活動をないがしろにはできないし、むしろ積極的に弁護活動をしていかなければならないと思っている。





(上毛新聞 2009年1月30日掲載)