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東洋大国際地域学部准教授  子島 進(館林市尾曳町)



【略歴】鹿児島県生まれ。総合研究大学院大修了。博士(文学)。2004年から東洋大国際地域学部教員。同学部の学生たちとフェアトレードの研究と実践に従事している。


フェアトレード



◎広がる途上国支援の輪



 新しい形の国際協力として注目を集めるフェアトレード。経済的に厳しい生活を送る途上国の生産者支援を第一の目的としていますが、実際どのような商品があるのでしょうか? 商品の数は何千にもなると思いますが、ここでは大きく三つに分けてみました。

 まずは、コーヒー、紅茶、チョコレートの原料となるカカオといった輸出用の一次産品です。たとえば、エチオピアのコーヒー農家は、質のいいコーヒーを作ろうとがんばっていますが、経済的には追いつめられています。その理由は、端的に言えば、彼ら彼女たちの「取り分」が、最終的な商品価格の1―3%にすぎないからです。わたしたちが日本で味わう三百円のコーヒー一杯のうち、汗水たらして働いて豆を作る人の取り分は、たったの三円から十円なのです。

 仮に「三倍にしてほしい」と生産者が言ったらどうでしょうか? 「そうなれば三食まともに食えるし、子供を学校にやれる」と。そのような声に応えようとする動きをこそが、フェアトレードなのです(DVD『おいしいコーヒーの真実』を、ぜひご覧ください)。

 次に、竹細工や籐(とう)のかご、刺繍(ししゅう)など地域の手工芸品があります。これらは本来売り物ではありませんが、開発支援のために農村にやってきたNGOのボランティアが、地域の伝統工芸を「発見」するのです。そして、「これは日本で(アメリカで)売れるんじゃないか。売れれば、貧しい農民の収入向上になる」と自国に持ち帰り、バザーで販売する。このようなきっかけから、試行錯誤を経て商品化されたものです。バングラデシュの刺繍「ノクシカタ」が代表的な商品です。

 さらには、都市で生まれたアイデア商品もあります。「地域の伝統」など持たないスラムの住民が自分たちで考えて、あるいはどこか別のスラムから話を聞いてきて作り出す、そんな商品です。フィリピンのセブ市で見学した事例では、ジュースの空きパックを集めてミシンで縫製し、大小さまざまなバッグやエプロンを販売していました。この事業は、スラムのお母さんたちに仕事をもたらしただけでなく、ごみの軽減にもつながっています。また、自らの収入で家計を支えることは、彼女たちの発言力を高め、ひいてはスラムにおける家庭内暴力(夫による妻への暴力)の減少にも貢献するのではないでしょうか。

 自らの生活を自らの手で良くしていこうと努力する途上国の生産者、「援助ではなく、対等な立場でのビジネスを」と商品の流通・販売に取り組む先進国のNGO、そしてこれらの商品に価値を見いだし共感を抱く消費者の輪が広がることで、今日のフェアトレード運動が姿を現してきました。





(上毛新聞 2009年2月24日掲載)