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精進料理研究家  高梨 尚之(沼田市)



【略歴】駒沢大卒。曹洞宗永福寺住職。元永平寺東京別院の料理長。ウェブサイト典座ネットで食育説法を発信。主著『永平寺の精進料理』『典座和尚の精進料理』など。


米湯の法味と倹約の心



◎朝食に健康的なお粥を



 朝バナナダイエットなる健康法が人気だ。バナナ主体の朝食で一日の摂取カロリーを減らすため、メタボリック対策にも効果的だという。豊富な栄養素や食物繊維が体に良いうえに、手軽にむけるバナナは忙しい朝に最適だ。しかし一時バナナが入手困難になるほど過熱した大ブームも今ではだいぶ落ち着いたようだ。

 どんなに素晴らしい食事でも、短期間でやめては残念ながら効果が薄い。良き食事を長く継続してこそ健康的な食習慣を築くことができるのである。

 曹洞宗の修行道場では、朝はお粥(かゆ)というのが八百年来の伝統だ。毎朝お粥で飽きませんかと良く聞かれるが、そこを飽きぬように工夫するのが典座(てんぞ)(料理長)の腕の見せどころである。

 独特の風味と食感が魅力の、栄養と食物繊維が豊富な大豆入りの玄米粥。サツマイモやカボチャ、黒豆などの煮物を加えたほんのり甘いお粥。生姜(しょうが)汁を散らし酸味をきかせた清涼感あるもずく粥。村娘スジャータがお釈迦(しゃか)様に布施したお粥にちなむ豆乳の乳粥(ちちがゆ)など。

 朝食が待ち遠しいほどに、お粥と副菜の魅力的な組み合わせは無限だ。おいしくいただいてこそ、飽きずに続けることができる。

 お粥は低カロリーと消化の良さで朝バナナに匹敵する、和の健康食なのである。

 土鍋で気長に炊くのが一番だが、忙しければタイマー機能付きの炊飯器が便利。「人を待たせてもお粥を待たせるな」の格言通り、食べる直前に炊きあげ、かき混ぜすぎて無用な粘りけを出さないことがコツだ。

 また修行道場では比較的早い時間に夕食を済ませるため、翌日の朝食までの約十四時間、お茶などの水分しか口にしない軽い断食状態が続く。専門医が言うには、これが胃腸を休ませる意味で体に良いらしい。そしてからっぽの胃に、消化の良いお粥がやさしくしみ渡るのだ。合理性に裏打ちされた伝統が、修行僧の健康を支えてきたのである。

 ところでお粥は少量のお米でたくさん作ることができ、経済的にも優れている。

 北宋時代の高僧、芙蓉道楷(ふようどうかい)禅師は「寺にお米が十分ある時はご飯を、足りない場合はお粥を炊くがよい。お寺にあるお米の量を考えてお粥の濃さを調えよ。それでも足りなければさらに薄めて米湯(べいとう)(おもゆ)で耐え忍ぶのだ。安易に寄進に頼ることなく、欲を抑えて坐禅(ざぜん)に励もうではないか」と説き、貧苦に負けず修行に打ち込む心意気を説いた。禅門に「米湯の法味(ほうみ)」として伝わる逸話である。

 世界的な不況に苦しむ昨今。出家者の禁欲規範を安易に持ち出して、現実社会の困苦に目をそむけ、無批判に耐えるだけの消極的姿勢を奨(すす)めるつもりは毛頭ないが、経済好転の日まで、身近な工夫と努力で乗り切ろうとする禅の倹約精神が参考になれば幸いだ。合掌





(上毛新聞 2009年2月26日掲載)