視点 オピニオン21
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県立ぐんま昆虫の森園長  矢島 稔(東京都台東区)



【略歴】 東京都出身。東京学芸大卒。昆虫生態学専攻。1961年、動物園に日本初の昆虫部門創設。87年に多摩動物公園長就任。99年から現職。日本博物館協会棚橋賞受賞。


子供たちの素朴な疑問



◎自然への興味消さずに




 今回の「オピニオン21」の新委員の紹介記事を見て、はっとした。五十八人の中で七十歳代は四人、なんと私は最高年齢である。

 しかし、毎週日曜の午後一時半から「昆虫の森」の映像ホールで昆虫の生態を一つ紹介し、その後来てくれた幼稚園から大人までの方から虫についての質問を受け、それに答えている“現役”である。夏休みに行っているラジオの電話相談はもう二十五年になるが、子供の発想は鋭いし、素朴な質問ほど難しいものはない。子供と市民に分かりやすく話ができるということはいろいろな観察を積み重ねていないとできないし、幼児や小学生の目線で答えられるかというテストでもある。

 いくらものを知っていても、相手に分かりやすく答えられなくなったら回答者とは言えない。そこで新しい情報を探して理解し、今でも野外の生きものを探して歩き、感性をみがいて観察を続け記録している。生きた昆虫の行動を皆さんに紹介するという新しい分野を拓ひらいてきた私の当然の使命だと思っている。

 ただ、長い間見てきたはずの自然は奧深く、突然の質問に胸をつかれ、すぐ言葉が出ないこともある。小さい子供は今それを知りたいのだから何か答えなければならない。

 正直に言うと、「それは分からないんだ」というのが正解の場合もある。しかしそう言ってしまうと、聞いている子の興味を消してしまうことになる。これは私が最も注意している心がまえで、何とかその疑問を持ち続け、さらに自然や生きものへの関心をもち続けてほしいために解答しなければならないと思っている。例えば小学一年生の子が「虫には心があるの?」と聞いてきた。しかし理科はもちろん心理学も知らない子供でも、心という言葉は知っていて、心とは何だろうという疑問をもつのは当然なことだ。

 とっさに私は逆に聞いた。「君に心はあるかな」「うーん、あると思う」「どこにあるの」「……」「そうそれが君の質問だね」

 「昔の人は心臓にあるとか脳にあると考えたらしいが、実は形があって取り出せるものではないのが心なんだ。むずかしいことは大きくなって勉強すれば分かってくると思うが、私がここで答えておきたいのは生きているものにはみんな心があるということだ。だからトンボにも蛙(かえる)にも心はあって、飛んだり歩いたりしているが、人間の心とは違うと思うので、昆虫や蛙を自然の中でよく観察して心を探してほしい」

 そう答えたが、あなただったら何と答えるだろうか。





(上毛新聞 2009年3月2日掲載)