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中央大政策文化総合研究所客員研究員  島村 高嘉(東京都国分寺市)



【略歴】前橋高卒。1955年に一橋大卒後、日本銀行入行。国庫局長、審議役などを務め退職。その後、防衛大学校、中央大で教授、麗澤大で客員教授を経て現職。



危機のなかの日本経済



◎大切な「自助の精神」




 米国発の不況の大津波がわが国にも押し寄せ、暗いニュースばかりが報道されて、今や官民がその対応に大わらわとなってきた。膨らむ一方の財政出動、なりふりかまわぬ雇用調整などなど目白押しだ。政府紙幣の発行といった奇策の類まで取りざたされるような有様となってきた。

 こうした不況対策のオンパレードのなか「副作用」や「落とし穴」をうんぬんする声は限られているようだが、私はそれを危惧ぐしている。では賢明な政策選択はどうあるべきなのか。要点を絞って述べてみたい。

 まず、自己本位で他を顧みない政策は、負の連鎖反応を招きかねず、結局のところ埒らちがあかないということだ。国民経済のレベルでの保護貿易主義や通貨の切り下げ政策などの弊害はよく知られたところだが(近隣窮乏化政策)、企業経営レベルでの安易な派遣切りや下請け企業へのしわ寄せなどの庭先優先論も社会全体では決して解決には結びつかないはずだ。雇用について言うなら、社会全体で雇用を守るセーフティーネットの拡充やみんなで痛みを共有するワークシェアリング制の導入が急ぎ望まれるところだ。西欧には成功例がいくつもある。

 民需が萎縮した今、財政出動の出番には違いはないが、使途はなんでもありのバラマキ型では、放漫財政に再び免罪符を与えてしまうばかりだ。大切なのは、民需を再び喚起するような有効な「呼び水政策」を編み出すことではないか。「穴を掘って再び埋める式」の失業対策ではダメだ。貸し渋り解消を促す金融機関への資本注入や社会が求める環境、耐震、医療、介護といった分野へ進出する民間企業への支援にこそ傾注すべきではないか。投資で社会を変える分野(社会的責任投資)に光を当ててほしい。

 財政の使途だけでなく、調達方法にも注文がある。いわゆる「埋蔵金の活用」には私は大賛成だ。アイドルマネーのアクティブ化だからだ。赤字国債も税収の落ち込みが予想される今、ある程度はやむを得ない。しかし、永久国債の発行とか日銀引き受け発行とかは「禁じ手」だ。政府紙幣の発行に至っては、貨幣をもてあそぶ愚行であり(中央銀行制度の存在理由の否定)、歴史を顧みれば、こうした「貨幣の悪いたずら戯」が再三バブルやインフレを招いているのだ。

 要するに、政府への過剰な依存は、真の解決に結び付かない。逆に民間部門の「自助の精神」こそ大切で、それは経済活性化への「呼び水政策」に呼応する「地下水」に当たるものだ。肝心な「地下水」が枯れぬよう前向きの気概を堅持していきたいものだ。






(上毛新聞 2009年3月6日掲載)