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臨床美術士  高庭 多江子(伊勢崎市今泉町)



【略歴】伊勢崎市内の特別養護老人ホームに14年間勤務。2003年から臨床美術を学び習得。現在も月2回東京で受講しながら、ボランティアでお年寄りに指導を続けている。



アナログ日記のすすめ



◎右脳使い、感性育てる




 十月の早朝、西に傾いて「冬の大六角形」をつくる星座、東北東に北斗七星を見ていると、忘れていた自然の大きさや人間の小ささが感じられ、宇宙の広さを無限にとらえられる。

 素晴らしい朝焼けが空を埋めた。雄大な風景に、「気」が身体の中に満ちる。忙しい暮らしの中で忘れていたものがさまざまな形でよみがえってくる。

 星に興味を持ったのは、一九八六年にハレー彗星が地球に大接近するころ。流星群、彗星が気の遠くなるような時間を超えてやってくることに心引かれた。一九九六年には、赤城山で、尾を引く百武彗星に感動した。

 自然の中で過ごすひと時は心をほっとさせ、心身を若返らせてくれる。無心になれる自然の恵みは無限にあり、そんな場所は誰にでもある。

 自然の中でセンスをはぐくむ方法として、ふだんから体で感じる機会をたくさんつくることが大切である。すばらしいことに、日本には四季があり、旧暦の行事がある。風景の移り変わりもある。山に行く、海に行く、夜空の星や月を見る。日本人は昔から、生活の中で自然とのかかわりを大切にして、楽しみながら体で覚え、センスを育て文化として継承しているのだ。

 臨床美術で、感性を育てる方法として「アナログ日記」がある。その日の気分をイメージして、オイルパステル、クレヨン、色鉛筆などで、感じられる色を二色なり三色選び、直線、曲線、点、塗る―などの手法だけを使って抽象的に描く。これがアナログ画の描き方で、具体的な形・シンボル的なことは、一切描かないのが条件である。

 毎日、毎日の気分を言葉でなく、点、線、面の手法だけで表現してみる。難しい理論や技法はいらず、誰にでも描けるのだ。右脳で描くアナログ画には何とも素晴らしいことに上手、下手がない。左脳で描くシンボル画の場合はこれがつい出てきてしまう。

 これを機会に、アナログ日記を今日からつけてみてはいかがだろう。日記帳には、はがきサイズのスケッチブック、クロッキーノート、裏の使える広告の紙を二十枚ほどホッチキスでとめても結構。認知症の予防になるし、右脳が活性化していると、ストレスが減り、意欲がわいて楽しくなってくる。気に入った作品は額に入れ、部屋に飾ってみてはどうか。家族とのコミュニケーションが生まれ、生活が活性化されるだろう。




(上毛新聞 2009年3月20日掲載)