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商工中金前橋支店長  三室 一也(前橋市千代田町)



【略歴】東京都出身。東京大卒。現在、商工中金前橋支店長。主著に身近な話題を掘り下げて考える親子の会話をつづった『親と子の[よのなか]科』(ちくま新書)がある。



さわやかな肩すかし



◎温かい眼差しが勇気に




 群馬に単身赴任中の中年サラリーマンである。趣味はゴルフ…と、フツーの社会人のように言いたいところだが、チョー下手くそである。

 私のささやかな趣味は、社会人としての人間関係にはまったく役立たずな代物、ギターである。こんな趣味だけど役立つこともあるもんだ。

 県の産業経済部長(当時)の粋な計らいで、ある児童自立支援施設で一日園長としてギターの弾き語りをしたことがある。非行やDV(家庭内暴力)など暗い過去を背負ってこの施設に暮らす子供たちを相手に、ちょいと元気の出る歌を、と思いながら。

 一日園長の当日、施設の職員の方から施設内の案内を受けた。廊下で出会う子供たちをその都度紹介してくれた。

 「この子は、ここに来てから二十五メートル泳げるようになったんです」。わが子のようにうれしそうに語る。

 「この子は、今度英検準2級を受けるんです」。わが子のように誇らしげに語る。

 暗い過去を背負う子供たちに「元気」を…なんて気負いは、春風のようにさわやかな肩すかしにあった。そう。みんな元気でかわいい。

 多分、この施設の職員の方々の温かい眼差(まなざ)しを一身に受けて、この子供たちは「できなかった」ことが「できる」ようになったんだろう。そう思う。

 人間って、誰だって、他人に認められたい、褒められたい、励まされたい、慰められたい。そんな他人の温かな眼差しを感じたとき、人は一歩前進する勇気を持つのだと思う。かつて心が崩れ落ちそうになり、愛する妻の眼差しに支えられ、かろうじて生きてきた私にはそう思える。

 アサヒビール元会長の樋口広太郎さんがこんなことを言っていた。「社員はみんな熱気球だ。重しを取れば天に向かって舞い上がる。私(つまり社長)の仕事は社員が感じている重しを取り除いてあげることだ」
 支店の仲間からは「お前自身はできているんか」と言われそうだが、会社に限らず、どんな組織でも、どんな人間関係でも、重しを外してあげる温かい眼差しが周りにあればこそ、人は熱気球のように舞い上がる。世知辛い世の中だけど、否、だからこそ、大事にしたいものだ。皆が百年に一度の苦境を越えて未来に向かって舞い上がる勇気を持てるように…。

 施設での弾き語りから数日後、子供たちから手紙をもらった。今でも大事にしている。鉛筆で書かれた珠玉の言葉から感じられる子供たちの温かい眼差しに私の方が元気をもらったような気がしている。

 もっとも、私のゴルフは、支店の仲間の温かい眼差しを持ってしても、熱気球のようにはいかないようだが…。





(上毛新聞 2009年3月22日掲載)