視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
NPO法人国際比較文化研究所所長  太田 敬雄(安中市鷺宮)



【略歴】米国の神学校で宗教学修士号を取得。弘前大、新島女子短大などでの教職を経て、8年前にNPO法人国際比較文化研究所を設立、同所長となる。



大統領夫人の実践と訴え



◎子育ての役割重視を



 ミッシェル・オバマといえば知らぬ人は無い。世界の注目と期待を一身に集めているオバマ大統領の夫人として公的な場に出ることも多く、大統領を支える大事な存在である。

 私がこのファーストレディーに注目したのは、彼女がシカゴのサウス・サイド育ちという点だった。彼女が生まれた一九六四年前後、私はシカゴ郊外の小さな町の、小さな大学で学んでいた。

 休日にはしばしばシカゴまで出かけたが、そんな私が何度となく注意されたことは「危険だからサウス・サイドには行くなよ」だった。

 その地域で伝道していた日系人牧師がこんな話をしてくれた。「これまで十年ほどの活動の中で、何百人もの友人をナイフや銃で亡くした」。彼の「友人」とは、彼が救済しようとしていた、若者たちだ。

 そのサウス・サイドでミッシェル夫人は生まれ育ったのだ。

 一九六六年、大学を卒業した私は、オハイオ州のクリーブランド市に数学教師として採用され、そこで半年間、教員として過ごした。

 私の高校はスラム街のマンモス高校。そこでの半年で私は幸運にも拳銃には出合わなかったが、ありとあらゆる問題を経験させてもらった。そこでの体験の中に、私の教員としての姿勢を変えさせられた出来事がある。

 ある日、一人の男子生徒が授業の後で私のところに来て、親からの手紙を神妙に差し出した。

 手紙には「わが家ではこの子をたたいて育てています。もしも学校で問題を起こしたら、先生、この子を殴ってください。私たちは先生を信頼し、全面的に先生をバックアップします」

 体罰の問題はさておき、私はこの手紙に犯罪のあふれるスラム街に住むしかない状況の中で、必死に子育てしている親の姿を見た。その日から私のスラムの生徒を見る目が変わった。

 子どもにとって大事なことは、育った場所ではなく、また経済状態でもなく、家庭においてどのように育てられてきたかにある。

 ミッシェルの母親は、子育ての間、仕事を持たず母親であることに専念していた。そして今、ミッシェルはファーストレディーとしての最も大事な役割は子育てであるという。

 オバマ大統領とは違って、数世代にわたってアメリカで生きてきた「生粋の」アフリカン・アメリカンであるファーストレディーは大統領以上にアメリカン・ドリームの実現者である。そして彼女はいま無言の内に家庭の復権を訴えている。

 これからの社会にミッシェルに倣う親の多く出ることを祈る。それなしには健全な社会は決して育たない。




(上毛新聞 2009年3月29日掲載)