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NPO国際エコヘルス研究会理事長  鈴木 庄亮(渋川市北橘町)



【略歴】群馬大医学部卒、東京大大学院修了。東京大医学部助教授、群馬大医学部教授(公衆衛生学、生態学)、群馬産業保健推進センター所長など歴任。群馬大名誉教授。


どうする少子化



◎手厚い子育て支援を



 インドネシアのジャワの農村では自宅で出産する。生まれると村の親しん戚せき縁者が次から次にお祝いに訪れる。踊り子とお囃はやしの楽団を招いて、自宅の庭で子供の誕生を祝う。貧乏な小作人はラジカセに大きなスピーカーをつないでお祝いの歌をにぎやかに鳴らし続ける。訪問者たちは皆、お祝いにお米を二キロくらい袋に包んだものを置いていく。集落は祝祭ムードにあふれる。

 妊婦のお世話、分娩(ぶんべん)、授乳などは、集落の「伝統産婆」が産婦の家に泊まり込みで世話をする。妊婦は幼い時からなじみのこの頼もしい産婆に何でも相談できる。

 母乳が出なければすぐに代わりの乳母が現れる。幼児は身内・血族はもちろん、近所の小学生や同年代の友達が、おぶったり遊んだりして大きくなる。多産多死の時代にいかにたくさん産み育てるかが課題であり、親戚と集落が総力をあげてお祝いし支援してきたのである。

 出生を大げさに喜び支援してやまない伝統的ジャワ農村社会に比べて、今の日本社会は子供の産育に対して冷たい社会になっている。「生老病死」のうちの「老病死」の課題に手厚く、「生」に冷たい。「乳幼児に投票権がないからなあ」と私はよく冗談を言う。

 日本では若者は結婚難である。定職に就けずお金がない若者は結婚したくてもできない。統計をみると、婚姻率は所得に比例している。三十歳代でようやく結婚しても子供をつくれないという。職場では妊娠すると事業主も同僚も「休まれると大変だ」とまず思ってしまいがちで、妊婦も職場に迷惑がかかるので辞めるしかないと考えてしまう。

 東京都渋谷区の出生率は0・75と全国平均の半分強しか産んでいない。東京を中心に全国の認可保育所の待機児童は急増して四万人超である。子供の養育・教育費がかかり過ぎる。その割には、地域社会、職場、国などからの制度的経済的支援が少ない。まだまだ冷たいのである。

 北欧諸国や英仏ではこの数十年出産・児童手当、労働条件改善を手厚くして、出生率を回復させた。日本ではGDP比でこれら諸国の五分の一しか対策のための出費をしていないのである。

 日本の人口は今後どんどん減少する。今の出生率だと、人口は二〇五〇年には一億人を切り、その後は毎年百万人ずつ減少して、二一〇〇年には五千万人以下となり、二二〇〇年には現在の十分の一にまで減少する。自分の住んでいる町の人口が十分の一になった状況を想像してみてほしい。人は長生きなので人口慣性のため、実際の人口の増減は遅れる。日本社会全体でもっと早くに出生・育児・教育を支援するシステムを構築しなければならなかったのである。





(上毛新聞 2009年3月31日掲載)