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弁護士  足立 進(前橋市下小出町)



【略歴】前橋市出身。一橋大法学部卒。1989年、弁護士開業。2001年県弁護士会副会長。04年から民間の犯罪被害者支援団体「NPO法人すてっぷぐんま」代表。


犯罪被害者等基本法



◎市町村で支援の砦を



 わが国の犯罪被害者支援において画期となったのは、二〇〇四年十二月に制定された犯罪被害者等基本法である。これは、「全国犯罪被害者の会」が中心となって、全国各地で被害者支援立法を求める署名運動を展開し、それを見た時の小泉総理が強い共感を示し、迅速な対応を指示した結果、立法が短期間で実現した経緯を持つ。欧米の支援活動が、民間団体による支援を基礎に発展したのに対し、わが国のそれは、いわば為政者の一声で実現したと言っても過言ではなく、トップダウン型の支援という特徴を持つ。

 被害者支援が国家プロジェクトとして推進される結果、制度改革は急激に進む。これまでここで取り上げた被害者参加制度や少年審判傍聴制度はその一例であり、これらは裁判員制度の後に策定されたというのに、裁判員裁判が実施される前に施行されたほどである。しかし、制度改革が急であることの副作用も生じている。現場の意識や対応が改革のスピードについていけないのである。見たところ、それは市町村において顕著である。

 犯罪被害者等基本法は、被害者支援施策の実施責務を国と地方公共団体に課している。しかし、現実として、特に市町村レベルの施策は貧弱である。中には東京都杉並区のように、犯罪被害者に金員を無償貸与するような独自の施策を講じる自治体もあるが、それは例外である。県レベルで言えば、当群馬県は、二〇〇七年に犯罪被害者等基本計画を策定する等で対応しているが、県内の市町村でこうした施策を策定しているところは皆無であるし、中には相談する窓口や担当者が明確に決まっていないところもある。国から発した被害者支援の流れが、市町村の前で蒸発してしまっているのである。

 被害者や遺族が、どこを起点に相談しても、そのニーズをすくい上げ、一定の水準を満たした支援を継続的に提供するシステムの構築こそ、安全、安心な街づくりの前提といえる。被害者のニーズはそれこそ生活全般に及んでいる。被害をきっかけに住居や仕事、生活の基盤を失う人も多い。必要な支援がなされず放置されると社会への信頼感が失われ、それが被害者の孤立感や疎外感をさらに強めてしまう。その意味で、被害者の生活問題に身近な市町村が被害者支援の砦とりでを築く必要は大きいし、その価値は高いのである。

 地方財政は逼ひっ迫ぱくしており、施策の導入に慎重なのかもしれない。しかし、市町村の被害者支援施策の実施は法が定めた責務であるし、重要度も高い。仮に、担当者の意識において、犯罪被害を「不幸な他人ごと」と思っているなら、いつまでたっても支援の実は得られないのである。




(上毛新聞 2009年4月5日掲載)