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北越製紙研究所主幹  清水 義明(新潟県長岡市)



【略歴】高崎市出身。高崎高卒。東北大工学部資源工学科卒。同大学院修士課程修了。1979年から北越製紙勤務。現在、同社研究所研究員。紙パルプ技術協会会員。



バイオリファイナリー



◎CO2抑制に大きな期待



 世界で今、共通する最も重要な問題は食糧、エネルギー、環境の三つであるといわれています。

 「バイオ」という言葉はよく耳にしますが、「バイオリファイナリー」という言葉はあまり耳にする機会がないと思います。バイオリファイナリーとは、簡単に言えば、石油の代わりに植物(バイオマス)から、多くの燃料や化学薬品をつくる統合技術のことです。発祥地の米国ではこれを二十一世紀の産業革命とも呼んでいるそうです。

 原料となるバイオマスには二つあります。一つはトウモロコシやサトウキビなどの食用バイオマス。もう一つは樹木に代表されるセルロース系バイオマスです。

 紙パルプメーカーは、もともと紙の原料としてセルロース系バイオマス(樹木)を使っていますが、ごく最近になって、同じような試みを始めました。森林バイオリファイナリーです。今までのように樹木からパルプや紙だけをつくるのではなく、バイオディーゼル、セルロースエタノール、電力、燃料原料、薬品など多様多彩な製品をつくろうとするものです。

 しかし、まだ米国を中心として提案段階にあり、その実行には賛否両論があるようです。理由は、今まで紙パルプで使われていない技術も必要であり、何より産業構造の大転換を伴うからです。日本での取り組みはまだありません。

 ほとんどの製紙会社は以前から、パルプをつくる際に木材チップから回収される黒液を濃縮・燃焼させて、電気と蒸気をつくっています。木材の成分のうち80%は繊維分(セルロース)とリグニンなどの樹脂分。黒液は紙をつくる時に出る廃棄物に相当します。製紙会社にとっては、廃棄物を再利用する黒液は重要なバイオ燃料となっています。

 トウモロコシなどの食糧からつくるバイオエタノールは、二酸化炭素(CO2)の排出が少ないという「功」と、食糧危機という「罪」が指摘されています。しかし最近この「功」の部分を否定する実証結果が出ました。穀物からバイオ燃料をつくる時に発生する二酸化炭素は、得られる削減効果に比べて逆に膨大な量になるというのです。しかし、ワラや雑草からバイオ燃料をつくれば、二酸化炭素を大幅に減らせるということです。

 バイオリファイナリーには、食糧危機を解消し、二酸化炭素の排出を抑えるという大きな期待が寄せられています。

 新潟県長岡市でも積雪量が年々減り、温暖化を感じています。将来、越後湯沢から雪が消えたら、川端康成が嘆くでしょう。今後さらに技術開発が進み、バイオリファイナリーシステムが各産業間で実現すれば、現在の環境問題の多くが解消されるのではないでしょうか。





(上毛新聞 2009年4月8日掲載)