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尾瀬保護財団企画課主任  安類 智仁(渋川市金井)



【略歴】玉川大農学部卒。第3次尾瀬総合学術調査団員を経て、尾瀬保護財団に勤務。2008年度は尾瀬沼ビジターセンター(福島県桧枝岐村)の統括責任者も務めている。


尾瀬保護のために



◎変化とらえる“眼”を



 尾瀬はまだ深い雪に覆われていますが、四月に入って尾瀬関係者はシーズンの準備に追われています。たくさんの登山者がシーズンを待ちわびているとは思いますが、私たちも今年の尾瀬が変わらず美しい姿を保ちながら、どんなに感動的で、貴重な出合いを提供してくれるのか楽しみでなりません。

 一方、今シーズンの尾瀬では、個体数が増加しているニホンジカの捕獲が行われるというニュースがあります。ニホンジカは雪深い場所では生活できないため、尾瀬では昔からその姿は見られませんでした。しかし人間の活動範囲の拡大に伴い、生息場所が尾瀬周辺に追いやられたことや、猟師の高齢化による狩猟者(狩猟圧)の減少、近年の少雪といった複数の要因が重なり、ミツガシワやニッコウキスゲといった湿原植物が食べられるなど、生態系への影響が懸念されています。またニホンジカだけでなく、ヤチヤナギの分布拡大に伴う湿原の富栄養化や、地球温暖化が尾瀬ケ原に与える長期的な影響など心配は尽きません。

 人間も自然の一部ではありますが、尾瀬の美しい姿を子孫に残すために、どういった行動をとるのがいいのでしょうか。尾瀬の総合学術調査団員として第一次調査(一九五〇~五二年)からかかわってきた阪口豊さんは、「目下のところ湿原の自然保護の第一の目的は人類の好みにあった景観を維持させることだと理解されますが、そうだとすればその行為は自然の秩序を無視した人類のエゴであり、聞こえはいいが生態系の破壊に手を貸すものである。自然保護について人類は早晩このジレンマに突き当たらざるを得なくなるのではないでしょうか。自然保護のあるべき姿について共通認識を持つ必要があります」と、尾瀬保護財団の役員退任にあたり、心を打つ言葉を残してくれました。

 また尾瀬に生まれ育ったある山小屋のご主人が、「人間が年寄りになるのと一緒で、尾瀬も年をとっています。湿原にはヤチヤナギが増え、樹木が大きくなりました。昔を知る者にとっては寂しいですが、成長し齢を重ねてゆく自然も、また自然なのだと思います」と以前に話してくれたことを思い出します。ニホンジカだけでなく、自然は長期的なサイクルで変化するものですが、目に見えない変化をとらえつつ、自然保護の考え方をみんなで創(つく)っていきたいと思います。そのためにも基礎的データの収集や、研究者の育成はもちろんのこと、尾瀬で働きながら、その姿を見続けてきた人たちの眼(め)が必要とされているのではないでしょうか。





(上毛新聞 2009年4月18日掲載)