視点 オピニオン21
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NPO法人リンケージ理事長  石川 京子(伊勢崎市羽黒町)



【略歴】愛津田塾大卒。リクルート勤務後、東京大大学院修了。高崎を拠点に、発達障碍のある成人の就労支援、児童や家族への療育援助、サポーター育成のNPO運営。



アクティブシニア



◎人生の師を地域資源に



 『やってみせ 言って聞かせて させて見せ ほめてやらねば 人は動かじ。話し合い 耳を傾け 承認し 任せてやらねば 人は育たず。やっている 姿を感謝で見守って 信頼せねば 人は実らず』とは、山本五十六氏の語録の一つである。私が理事長を務めるNPOの事業に発達障碍(しょうがい)のある若者への就労支援がある。ここで日々行われているのは、この語録の再現だと思うことが度々ある。そして、その主役はボランティアで活動してくださるジョブトレーニングコーチと呼ばれるアクティブシニアの方々なのである。

 男子トイレで上司に会ったときの振る舞い方から、履歴書上のブランクの埋め方まで教えてくれるコーチがいる。あなたのいいところは気働きができるところ、と何度も何度も繰り返し温かく語りかけてくれるコーチがいる。簿記講座に通い始めた若者に実務上のコツだよ、と言って具体的な例を示してくれるコーチがいる。家と学校の往復だけだった高校生がボランティア先でジョブトレーニングをするときに随行し、後見人として支えてくれるコーチがいる。若者が立ち止まったり戸惑ったりするのは仕事のことだけでない。役所や銀行、保険の手続きなど生活するうえで必要だけれども複雑な仕組みが世の中にはたくさんある。それをどうすればやっていけるか一緒に考え、図解してくれるコーチがいる。ひたすら彼ら彼女らの声に耳を傾けてくれるコーチがいる。そして、「案ずるより生むが易(やす)しだ。よくできたなあ。大丈夫だ」の一言で、若者の労働観を変えるきっかけを提供するコーチがいる。

 ジョブトレーニングコーチは発達障碍の専門家だったわけではない。専門の資格が必要なわけでもない。社会の中で仕事をしてきた経験と、それを彼ら彼女らの理解の仕方に沿って伝えること、そして長所とできることにまなざしを向けることがコーチとしての資格である。できないことを指摘するのは世の中の他の方がやってくれる。だからこそ、コーチがあなたのできること、長所が仕事につながり、社会につながることだと語りかけ、認め、褒め、任せ、信じることが意味を持つのである。

 ここには豊かな経験を積んできた人生の師がいるのである。少し外に目を向ければ、私たちが住む地域にはどれほど多くの『人生の師』がいるだろう。この人生の師という得がたい豊かな資源を地域に取り込むために、この四月からトヨタ財団が二年間プロジェクトを支えてくれることになった。若者とアクティブシニア、教育や就労支援機関、そして行政がそれぞれの資源を持ち寄りながら、ベクトルを同じくするとき、そこに自立と共生が交じり合う地域ができあがるのではないかと思うのである。





(上毛新聞 2009年4月21日掲載)