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県立女子大非常勤講師  小畑 紘一(東京都北区)



【略歴】東京都生まれ。疎開で前橋市へ。前橋高、慶応大経済学部卒。外務省に入省しウズベキスタン大使、ヨルダン大使など歴任、2006年3月退職。06年10月から現職。



破綻回避のために



◎「守る」意思と施策を




 上野の国の三宮は伊香保神社です。伊香保の街の石段を登りつめた所に鎮座している神社です。群馬大学名誉教授の故尾崎喜左雄氏によれば、「いかほ」の名は万葉集に初めて出てきますが、当時は榛名山およびその東南山麓(さんろく)一帯を指し、「いかつほ」という言葉の転化で、尖峰がいかめしくそびえ立っている「厳つ峯」ないし雷雲がわき出る「雷の峯」を意味します。

 神社は、「伊香保」の山の神秘への信仰、農耕に必要な水をもたらす恵みへの感謝から生まれました。神社の旧社は、この地を支配した阿利真公(ありまのきみ)一族の氏神として、その中心地・旧吉岡村大字大久保字三宮、通称溝祭(みぞまつり)に鎮座した三宮神社で、現在もそこにあります。

 この神社は七世紀二ツ岳の爆発でわき出す温泉を利用して出来た湯の街「伊香保」の現在地に十二・三世紀ごろ移りました。この時神社は「湯の守護神」となりました。「伊香保の湯」は、室町時代は湯治湯、江戸時代「子宝の湯」、明治期は東京に近い避暑地として繁栄してきました。街の繁栄源である湯の前にどっかり鎮座し、「湯前様」と親しく呼ばれながら、湯を、街を守ってきたのが伊香保神社なのです。

 ところで「守る」ということは、国のレベルでいえば、国民の命・財産を守り、国民が困った時には救いの手を差し伸べるということです。そのために国に求められる最低限のことは、国民が病気になった時に治療が受けられる制度、仕事を失った時に救済される制度、危険にさらされた時に命を守る制度を備えることです。しかるに今われわれの周りでは、医療破綻(はたん)、年金破綻、危機管理破綻、さらには教育、金融破綻等「破綻」の文字が氾濫(はんらん)しています。これは国民を守る国の能力・制度に問題が生じていることを意味します。

 国民を守るという点で、まともに機能していない国は国際社会にはたくさんあります。これを専門家は「破綻国家」と呼んでいます。イラク、アフガニスタン、パキスタン、スーダン、ソマリア、ジンバブエ等がこれに当たるそうです。こういった国の人々の悲惨な状況はテレビ等でご覧の通りです。これらの国と世界第二の経済大国日本とを比較するのは筋違いかもしれませんが、国家の破綻は、国民が、国家が自分たちを守ることができなくなっていると感じた時から始まります。その意味では日本国家の破綻はすでに始まっているのかもしれません。このような状態では国民は路頭に迷うしかありません。破綻回避のためには、国の「国民を守る」という意思の力強い表明と施策により国民の信頼を得るしかありません。伊香保神社が守護神として長らく存在しえたように、国が一日も早く頼みになる存在として機能することを切望します。





(上毛新聞 2009年4月26日掲載)