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県自然環境調査研究会員  斉藤 裕也(埼玉県小川町)




【略歴】横浜市出身。北里大水産学部卒。環境調査の専門家として尾瀬ケ原、奥利根地域などの学術調査に参加。ヤリタナゴ保護に取り組み、ヤリタナゴ調査会会長。



ヤリタナゴの保全



◎外来種の数 抑制を




 ヤリタナゴは二枚貝(マツカサガイ)に産卵し、その生息地は県内には一カ所しかないことは前回紹介した。ヤリタナゴは春~夏が繁殖期で、オスは背びれと尻びれが赤くなり、体側は薄緑色と淡紅色が混じった色に染まり美しい。メスは地味であるが卵が成熟してくると二センチほどの産卵管が延びてくる。繁殖期のオスはマツカサガイの周囲に縄張りを持ち、産卵管が延びたメスを誘う。メスは二枚貝の状態を確認した後、産卵管を二枚貝の水菅に差し込んで一瞬で産卵し、オスが放精後卵は二枚貝の中で発生して孵(ふ)化後も少し成長して、産卵から四十日後くらいに稚魚が貝の中から生まれ出てくる。稚魚は秋までに五センチほどになり、翌春には繁殖期を迎える。長生きな個体は、次年も生きて十センチほどにもなる。

 ヤリタナゴの保護を始めるにあたり、ヤリタナゴとマツカサガイが一緒に生息できる場所が県内にまだ残されているか確認する必要があった。もし、マツカサガイが生き残っている場所があれば、ヤリタナゴを放して生息地を複数化して絶滅の危険性を回避することができるからである。また、絶滅したと推定した四種のタナゴのうちの一種でも、人知れず生き残っているかもしれない。特に安中市と富岡市の間にある富岡丘陵には数多くの谷津があって、その奧にため池が存在し、そこから流れ出す小さな流れもあることから、ここが県内では最も生き残っている可能性の高い場所と考えられた。

 この地域の調査は県自然環境調査研究会が行っており、足掛け六年を要して、合計六十余のため池とそれにつながる水路を調査したが、ため池には少なからず外来魚のオオクチバスやブルーギルが生息していて、結局は外来種のタイリクバラタナゴの生息を二カ所で認めたに過ぎなかった。

 富岡丘陵以外にも、前橋市近郊のため池などからもタナゴ類生息の情報がいくつかもたらされたが、いずれも多々良沼などにも見られるタイリクバラタナゴであった。この種は戦時中に大陸から移植された魚に混じって入ったもので、利根川水系では一九四二年にすでに記録がある。オスは体高があって、繁殖期にはバラ色で美しく人にもよく慣れるので、観賞魚として単にタナゴと称して普通に売られ、県内では東毛地域を中心に広く生息している。藤岡のヤリタナゴ生息地の周辺にも生息しており、同じ二枚貝に産卵するので、ヤリタナゴの産卵する場所を争うライバルとしてその数の抑制に努めている。

 このライバルは繁殖期が春~秋までと長く、春に生まれた個体が秋には繁殖することができ、産卵する貝を選択する幅が広く、繁殖力があって強敵である。在来種保全のためには外来種の排除も必要となる場合がある。





(上毛新聞 2009年5月5日掲載)