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NPO国際エコヘルス研究会理事長  鈴木 庄亮(渋川市北橘町)



【略歴】群馬大医学部卒、東京大大学院修了。東京大医学部助教授、群馬大医学部教授(公衆衛生学、生態学)、群馬産業保健推進センター所長など歴任。群馬大名誉教授。



たばこと肺がん



◎禁煙文化の浸透を




 五月三十一日は「世界禁煙デー」である。これは一九八九年、WHO(世界保健機関)総会で決定された。三年後、日本ではこれを初日とする一週間を「禁煙週間」と定め、喫煙対策に努めてきた。

 六〇年代、筆者は医学部を出て東大で公衆衛生を学んだが、研究室には教授をはじめ「愛煙家」が多かった。大蔵省を後ろ盾に専売公社がたばこの生産・販売を管理し、税収のため拡販に努めたため、喫煙率は当時83%もあった。吸えるだけの日本成人男性が喫煙した時代だった。

 学術的には、五五年前後の英米のいくつかの疫学追跡調査で喫煙と肺がんの因果関係は確定的になっていた。六〇年代の初めには英国医学会が、次いで米連邦政府がこれらの学術結果を公認し、七〇年、WHO総会が注意を促す決議を採択した。これらの動きに日本の専売公社も腰を上げ、調査研究にお金を出した。

 高い喫煙率の効果は二十~四十年後の発がんに現れる。研究室で吸っていた敬愛すべき先輩たちの多くはその後、肺がん、ぼうこうがん、心筋梗塞(こうそく)などで早死にした。日本の肺がんの年齢調整死亡率は六五年↓九五年に、人口十万人当たり十八人から四十七人へと二倍以上に急増した。

 筆者らは、富岡保健所と共同で管内の市町村の六十歳の男性住民千二百九十九人の八〇年代初めの老人健診のデータで、喫煙による死亡リスクを調べた。そのうち百七人が七十歳までにがんや脳心疾患で死亡していた。内訳は、喫煙も大量飲酒もしない人たちの死亡率は0・3%と小さかったが、喫煙と大量飲酒をする人たちの死亡率は何と12%もあった。

 二〇〇六年に日本で肺がんにより亡くなった男性は四万六千人。そのうち、少なくとも三万人は喫煙による肺がん死亡と推定される。喫煙率80%時代の結末である。たばこの害を認知しながら知らせず販促をやったのなら公社にも責任がある。日本より二十年早く喫煙率を減らした米国では、肺がん死亡も早期に激減したのだから。

 日本男性の喫煙率は国民と関係者の努力で、〇八年にようやく40%を切ったが、まだ高い。米国は25%、うちカリフォルニア州は17%、筆者らと共同研究の同州アラメダ郡で14%である。筆者らのTHI検査による最近の男性喫煙率は、H社の川越工場では50%、福島工場では66%、K社の丸の内本社38%、渋川工場49%であった。北毛の地場某社では67%、某大企業の館林の分工場では45%。地方ほど高く、大都市で低い。首都圏の医師集団は15%と最低であった!

 これらの結果から、成人男性の喫煙率は、喫煙社会↓禁煙文化の浸透の程度で決まると言える。各位のもう「二息」の努力が必要である。






(上毛新聞 2009年5月26日掲載)