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群馬中央総研顧問・客員研究員  鈴木 知足(前橋市昭和町)




【略歴】前橋高、慶応大卒。大手都銀と関連会社に38年間勤務し、企画部門(調査部、広報・MOF担)、国内営業部門(支店長、理事業務渉外部長など)を経験。



裁判員制度スタート



◎司法界は「現代化」を




 社会の第一線を退いた2年ほど前、ボランティアの一つという気持ちで、銀行の先輩やかつては母も務めていた調停員になってみたいと思い、推薦などなしに申し込んだ。

 裁判所で面接があるということなので、それなりに準備して臨んでみて驚いた。なんと法律用語の解説まで求められたのである。

 調停とは法律以前の段階で双方納得のいく結論を導き出すことであると考えていた。それ故、銀行支店長時代にも取引先の後継者争い等に関し、企業存続を前提に調停してきたのである。

 ところが、面接では3人の裁判官に囲まれての質疑応答で、就職試験以上の物々しさであった。さらにこっけいなことには、事前に事務官から「運転免許証は持っていますね」と確認があった後、面接で「交通違反はいかがですか」と問われた。後で聞いた話であるが、『うそつき』であるかどうかを試したとのこと。

 面接の前にインターネットで調停員について調べたところ、「新たに調停員になった方にはあらかじめ法律の研修もあり、法律的な知識は必須でなく、多種多様な知識や経験を発揮されることが期待される云々(うんぬん)」とあった。ちなみに、この多種多様な知識や経験云々は裁判員制度のQ&A回答と同じである。

 ある雑誌に、京都財界のご意見番といわれる方の『調停員をクビになったワケ』が掲載されていた。それによれば離婚の調停を裁判所にまで持ち込むということはよほどのことであり、そうであるなら早く離婚したほうがやり直しがきくと考え、積極的に離婚を勧めていたところ、裁判長から「調停というのは離婚させないことが仕事であり、それが夫婦の幸せだ」と指摘されたとのこと。裁判所は形式的なことが大事で、真の幸福はその次といった感想を抱いたと述べている。

 司法の世界は、用語から裁判官の服装まで、世間通念からかけ離れている。商法が会社法となって、条文も平仮名、口語体に変わった。これは、法制審議会の「会社法制の現代化に関する要綱」等によるものであり、従来は『現代化』ではなかったのである。

 裁判所の門をくぐったことすらない、まして法廷に立つことなど考えたこともない市民がほとんどの中で、裁判員制度のスタートである。かつて国立大学医学部や医局の閉鎖性を題材とした長編小説『白い巨塔』が評判になったが、その後、医学界は変化してきている。

 一方、司法界では裁判員制度開始に伴い、司法試験合格者でない多くの市民がかかわってくる。裁判官の法服の色やその閉鎖性から『黒い巨塔』などと言われぬよう、体制はもちろんのこと、用語、服装など体裁も含め、早急な世間並み、現代化が要請されよう。





(上毛新聞 2009年6月1日掲載)