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リージェンシーグループ代表  長谷川 清美(東京都渋谷区)




【略歴】館林市出身。大手旅行社を経てヨーロッパ専門旅行会社「リージェンシーグループ」を設立。海外挙式にも着手、現在十数カ国での日本人挙式をコーディネート。



けがで知ったこと



◎人に優しい社会を




 昨年、突然、半月板損傷というアクシデントに見舞われ、一時期、車いすでの生活を余儀なくされました。狭い廊下のマンションは、扉の開閉方向ひとつで車いすでは全く動きがとれない構造になっていて、苦労しました。

 その後、松葉づえで外出ができるようになると、さらなる悲劇の始まりです。道路は段差だらけ、駅は階段ばかり。エレベーター、エスカレーター施設も本当に一部しかなく、外出前に各駅に電話して、施設の有無と場所の確認が必要な状態で、とにかく難儀でした。

 また最近の話ですが、一般的に超高級と呼ばれている旅館にうかがう機会がありました。広大な庭を持つ純和風旅館ですが、玄関で靴をぬぎ、廊下を歩き、さらに部屋にあがるまで、いったい、どれだけ段差と出合ったことか? 自分がハンディキャップの身を経験しただけに、健常者のみを考えている造りに、いくら高級でも、少しがっかりさせられました。いずれにせよ、日本の社会はまだまだハンディキャッパーにとって生活しにくい環境であることを身をもって感じた次第です。これから高齢者がますます増えていく日本を考えますと、人に優しい社会をつくることが最も必要なことと痛感した次第です。

 この4月にイタリアを訪れた時の話です。仕事柄、各地でホテル見学をしますが、北イタリアのマッジョーレ湖畔で見学したホテルは、玄関からオールフラットで各階に必ずハンディキャッパー用の部屋がありました。床はフラット、部屋に手すりが設けてありました。特にシャワーブースには壁にシャンプー台のような出っ張りがあり、実はこれが腰かけになるようで、とても好評だと言っていました。3つ星クラスでも、つねにスタッフ同士でアイデアを出し合って改良を重ね、人に優しい施設を造る努力をしている様子がうかがわれました。ヨーロッパは地続きですから車での移動が非常に楽です。高齢者や身障者の方々も家族と共に気楽に旅を楽しめる環境にあります。ですから受け入れ側も各所でいろいろ工夫しているようでした。

 世界遺産である水の都「ベネチア」では、車いすからゴンドラに移れるリフト付きの車もあります。天井絵画公開で天井の高さまで櫓やぐらを組んで展望台を造った有名な教会では、誰でも鑑賞できるようにと、エレベーターまで付けてしまいました。これによって、階段で上がれない人も歴史的な天井画を目前で鑑賞できるようになりました。神聖な教会、しかも祭壇にエレベーターです。思い切った思考に脱帽でした。でも良い点はおおいに見習い、取り入れ、日本も、もっと人に優しい国にしていかなくてはと考えさせられた旅でした。






(上毛新聞 2009年6月5日掲載)