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全国学校栄養士協議会副会長  松本 ふさ江(みなかみ町上津)




【略歴】聖徳栄養短大卒。民間給食会社勤務を経て、1973年から利根沼田地区の学校給食センターに勤務。2007年から昭和村学校給食センターで管理栄養士。



希薄な「食」への意識



◎健康に生き抜く力を




 学校給食は、ほとんどの保護者や児童、生徒から「栄養バランスがとれていて良い」「給食大好き」「おいしい」「楽しみ」などと評価を得ています。しかし、なかには、「野菜は嫌いだから」「魚はにおいが嫌い」「家でも食べたことがない」「見た目がいや」などとさまざまな理由がつけられ、食器に残されてしまいます。

 全国では極端な例として、給食そのものにほとんど手を付けずにいる児童、生徒も見られ、どのようにして午後までの授業のエネルギーを持続させるのか不思議でならないということもあります。これらのケースは少ないかもしれませんが、多くの栄養士たちが日々の給食を通じて感じることとして、子どもたち全般が食べ物に対する思いが希薄になっていることを挙げています。

 給食は、食べて空腹を満たすだけのものではなく、また、単なる栄養補給だけの目的で実施しているわけでもありません。私たちの食生活はすべて、自然の恩恵の上に成り立ち、さらに生産者をはじめ多くの人々の努力によって支えられています。「食べる」という行為は、動植物の貴い生命をいただく行為であり、食べ物を粗末にせずに調理し、残さないよう感謝の心を持って食べなければなりません。

 栄養士たちは子どもたちに、「今日の給食は皆さんの健康を維持するために動植物の貴重な命を頂きました。粗末にしないでください」「地球上に暮らす半分以上の人々が毎日空腹を満たせず、飢えに直面しています」などと日々訴えかけています。しかし、豊かな日本で育つ子どもたちには、自分のことと結びつかず切実感はなかなかもてないようです。

 そんな子どもたちの意識を変えるべく、身近で栽培された食材を使う地産地消の取り組みが全国で展開されています。食べ物がどこでどのように作られているのか、誰が作っているのかを知るために、米づくりなどを体験することにより、「食」を身近なものとしてとらえることで、少しずつではありますが給食の残量を減らせた等の事例も聞くことが出来るようになっています。

 食べることへの意識が希薄になっている子どもたちに、命をつなぐための大事な一口であることを、あの手この手で伝えている給食ですが、各家庭においても食の話題を取り上げていただきたいと思います。子どもの嫌いなものは作らないというお考えの方もいらっしゃいますが、子どもたちには、一つの食材もいろいろな食べ方ができることを教え、小さいうちに幅の広い食域を持たせ、健康に生き抜く力を付けてあげたいと日々努力の学校給食です。






(上毛新聞 2009年6月7日掲載)