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農業技術協会会長  藤巻 宏(藤岡市立石)




【略歴】東京農工大卒。1961年に農林省に入省。いくつかの研究機関を経て、農業生物資源研究所や農業研究センターの所長、東京農業大教授を歴任。2007年12月から農業技術協会会長。




日本の生物資源活用



◎自給率高める努力を





 日本では、石炭、石油、天然ガスなどのいわゆる化石エネルギー資源や、鉄鉱石や希少金属鉱石などの鉱物資源には恵まれず、これらの資源の大部分を海外に依存しています。そればかりでなく、エネルギー換算でみた食料の自給率は、40%以下に低迷し、先進国の中では最低位にあります。

 40年ほど前、米国ミネソタ大学で在外研究員として滞在していたころの話ですが、「自然資源に乏しい日本は武器なしでも討ち破れる」と豪語するアメリカ人学生の言葉が今でも耳に残り、今日、その言葉はますます現実味を増しています。

 海外からの空路、日本列島の上空に達すると、山野の緑に目を奪われます。ユーラシア大陸の東側に南北に長く連なる日本列島は、古来「山海の幸に恵まれた瑞穂(みずほ)の国」とされてきました。日本列島とその沿海域は生物資源の宝庫と言えます。平野部には河川と火山がはぐくんだ肥沃(ひよく)な田畑が広がり、中山間部には生物相の豊かな森林が広がり、沿海域では寒暖流が合流して魚介類が豊富です。この国は、世界でもまれな生物資源大国と言えるのではないでしょうか。

 ところが瑞穂の国は病んでいます。生物相の豊かな自然森は破壊され、人工林は管理の手が入らず荒れ放題。先祖の汗が染みこんだ棚田は放棄され、多大な投資により基盤整備のされた肥沃な水田が休耕されています。

 世界大戦後の急速な経済発展により、衣食足りて「ぜいたく」を知った国民は、新しいもの、珍しいもの、おいしいもの、健康によいものを求め続けてきました。その結果、急速に食の多様化・高度化が進みました。スーパーマーケットには、目映(まばゆ)いばかりに世界の食材が陳列され、お金さえ出せば、いつでも好きな食材が手に入ると思っている人が少なくないのではないでしょうか。

 しかし、地球規模での食料や食材の不足を懸念させる要因は少なくありません。不慮の凶作のほか、世界人口の増加、途上地域の経済発展に伴う食の高度化、バイオ燃料への転用などが考えられます。

 ところで、わが国の水田では、連作が可能であるうえに、水資源の涵養(かんよう)、耕土保全、暑熱緩和、生物多様性保全などに有効な農業を営むことができます。そこで、環境にやさしい水田農業を活いかして低迷する食料や飼料の自給率を高め、主食料の安定供給を図ることが喫緊の要事です。そのうえで、多様化・高度化した国民の食生活のニーズを満たすために、旬を活かして身近でとれる野菜、果物、魚介類を賞味する地産地消の考えを重視し、地域ごとに特産物の開発に努め国内で流通させるとともに、高品質な特産物を海外に輸出することまでを考える必要があります。





(上毛新聞 2009年6月20日掲載)