視点 オピニオン21
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青山学院大総合文化政策学部准教授  宮澤 淳一(東京都杉並区)




【略歴】太田市出身。青山学院大、早稲田大卒。トロント大客員教授などを経て2008年4月から現職。著書『グレン・グールド論』(吉田秀和賞)、『マクルーハンの光景』など。




大学生の勉強法(下)



◎答案はペンで書こう





 大学での講義ノートは要点をまとめるよりも、雑談を含めて内容をすべて書きとろう。前回のオピニオン(5月4日付)で私はそう主張し、根拠を述べた。そして「勉強法」のまとめはアウトプットについて。筆記具の話だ。

 「提出物は、手書きの場合、すべてペンを用いること」

 あらゆる講義の初回で、私は学生にそう告知する。要するに「鉛筆禁止」だ。試験の答案も、いわゆるレポート(提出課題)も、講義終了時に意見や感想を述べるレスポンス・シートも、すべてペンで書かせる。個人的には万年筆を勧めるが、常識的な色(黒か青の系統色)ならばボールペン等も可。しかし、鉛筆やシャープペンシルで書かれた提出物は無効とする。

 学生たちは戸惑う。入学試験のマークシート方式だって鉛筆なのに、なぜかと。実際それまでの彼らの勉強は、大量の黒鉛と消しゴムが育(はぐく)んできたのだ。

 実際的な理由は、ペン書きは格段に読みやすいから、である。鉛筆の文字は濃くて太ければまだよいが、黒鉛は照明で光ってしまい、意外に読みにくい。特にシャープペンシルの薄い筆致は、答案やレポートを多量に読む教師にはきつい。その点、インクの文字は、反射せず、紙の上で鮮明に並ぶ。ペンは教師の目にやさしい筆記具なのだ。

 これは学生にとっても有利だ。鉛筆書きと比べて、ペン書きの答案は気迫が違う。レポートにも重みがある。教師も熱心に読み、正当に評価してくれるはずだ(もちろんレポートは今やワープロ仕上げでよい)。

 だがペン書きの本当の効用は別にある。「一気に書く」いや「一気に表現する」姿勢を育むのだ。

 これは記述式の答案作成について特に意味がある。試験という「今・ここ=一度だけ」の機会に、何もかも捨てて、その場でとにかく書き始める。考えてから書くというよりは、書きながら考えていく。この二つの行為が一体となった状態が大切なのだ。

 学んできた知識、深めてきた考えの蓄積が答案に反映するのはもちろんだが、書き直しをせずに書き進めるというプロセスに自分を追い込むことで、考えが自然に整理され、適切な言葉が選ばれ、主張がまとまっていく。たとえ問題を想定して解答を準備してきたとしても、ペンで一気に書く答案は、新しい着想も加わり、当初の計画を良い意味で裏切る。密度の高い、スケールの大きな答案が仕上がるはずだ。

 書き損じは線で消し、書き足しは矢印と吹き出しで補えばよいのだから、ペンで答案を書いてみよう。自分の内面に眠る真の実力が発揮されるのが試験。それを最大限に引き出すのが「ペン書き」なのだ。






(上毛新聞 2009年6月22日掲載)