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県自然環境調査研究会員  斉藤 裕也(埼玉県小川町)




【略歴】横浜市出身。北里大水産学部卒。環境調査の専門家として尾瀬ケ原、奥利根地域などの学術調査に参加。ヤリタナゴ保護に取り組み、ヤリタナゴ調査会会長。



ヤリタナゴの生息環境




◎バランスよく保護を





 ヤリタナゴの保護を始めた当初は、取り巻く生息環境について一般の認識が低かった。特に二枚貝(マツカサガイ)を必要とする独特の繁殖方法についての説明には手間がかかった。

 ヤリタナゴが二枚貝に卵を産む習性は、生息地を減らし、個体数も増やせない現在の状況を招く大きな要因となっている。そして、この二枚貝の繁殖も、変わった方法で行われる。繁殖期になるとグロキディウム幼生を放出する。この幼生は一時的に魚のヒレに寄生した後に、砂底の場所に落ちて二枚貝としての生活を始める。二枚貝が幼生を放出する時期、幼生の付着に適した魚が程よい密度で生息していないと幼生は多く生き残れない。藤岡市の生息地の場合は、他の地域で広く知られるヨシノボリは少ないので、数多く生息するドジョウが幼生の寄生対象(宿主)として重要ではないかと推定している。

 およそ10年間ヤリタナゴの保護を行ってきたが、ヤリタナゴのみを保護しすぎ、水路に生息する魚の4分の3を占めるまでになっていたこともある。本来はこの生息地の素掘りの水路には約20種の魚が生息する。水路の中だけで一生を終えられる魚は限られ、この水路が上流や下流の河川と道のようにつながることによって、これだけの魚が生きていられるわけだ。しかしヤリタナゴの生息地では下流側からのつながりが無くなってしまっている。今後は残された上流側とのつながりが、多様な魚を残す生命線となる。

 現在はヤリタナゴ以外の魚も残すため、年一回の泥上げに伴う止水時に救出作業などを行っているが、労働力には限界がある。そして、二枚貝の保全にはもっと注力すべきであるが、そこまで手が回らないのが現状である。

 ヤリタナゴの保護を行っていると、多くの問題に突き当たる。ライバルとしての競合種の問題をはじめ、捕食者としてのオオクチバス、ナマズ、ライギョ等のこと、生息地周辺の農業や人々の暮らしが与える水路の形態や管理、水質、さらには水利権のこと、行政の縦割りによる多くの役所(市、県、国)それぞれの立場の違い―などだ。

 ヤリタナゴやマツカサガイの生息環境は昔からの農業形態と直結しており、今後もその環境がある程度の規模で維持されないと生存は難しい。生息環境をどの範囲まで維持できるかが、今後のヤリタナゴやマツカサガイの個体数を決めてしまうことになる。一つの種が生息していくための環境の確保を意図的に行っていくことは、多くの困難があり、縦割り行政を横につなげていくなど、さまざまな労力が必要である。






(上毛新聞 2009年6月29日掲載)