視点 オピニオン21
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脚本家  登坂 恵里香(横浜市瀬谷区)




【略歴】渋川市出身。早稲田大第一文学部卒。会社員を経て脚本家に。主な作品にテレビドラマ「ラブの贈りもの」「虹のかなた」、映画「チェスト!」(小説も発刊)など。



盲導犬育成の知恵(2)




◎リーダーの存在が糧に





 前回に引き続き、盲導犬育成から学んだ子育ての知恵について。

 盲導犬候補の仔こ犬を育てる家族のドラマを書くにあたっては、当然のことながら犬の本能、習性について詳しく勉強をした。そこで得た知識の中で特に印象的だったのが、犬の「リーダー症候群」(アルファシンドロームというらしい)についてだ。

 犬は大昔、 狼(おおかみ)のように群れで生きていた。その習性は今でも残っていて、飼い犬としてある家族に迎えられると、そこのメンバーをひとつの群れと見なすらしい。そのつぶらな瞳で日々観察を続け、この中で「リーダー」は誰か、自分は群れの中で何番目かを見抜こうとする。従って、しつけどころか、飼い主の言うことを全く聞かない犬がいるとしたら、それは「自分こそがこの群れのリーダー」と思っている証しなのだという。

 ドラマの中で、盲導犬訓練所の所長が主役のボランティア家族にきっぱりと言う。「誰がリーダーか、はっきりさせてください。そこがぶれていると、犬は自分こそがリーダーと思いこみ、手がつけられなくなります。そんな状態は犬にとっても不幸です」

 果たしてこれは犬に限った話なのだろうか。

 「しつけ云々(うんぬん)以前の、手がつけられない状態の子供」…皆さんのまわりにも見受けられると思う。それは、その子が「リーダー」不在の状態で育ったということにほかならない。

 欲しいものを言えば買ってくれる。他人からしかられた時、「あんたは悪くないから。お母さんが代わりに文句言ってやる」とわがことのように憤慨する親なら持っているかもしれない。でも、「何があってもこの人と一緒なら大丈夫」という安心感。「この人についていけばそうそうひどいことにはならないだろう」という信頼感。身近な大人に対して、そうした感覚を一度も持てないまま成長するとしたら、間違いなくその子は不幸である。

 これを読んでいるお父さん、あるいはお母さん。あなたは家族のリーダーたりえているだろうか。「リーダーの決定には従う」家族の中でそれが徹底できているだろうか。

 「相ならんものは相ならん」「駄目なものは駄目」。身勝手、横暴、いいではないか。もし、それが公平な目で見て「理不尽」なことであったとしても、きっぱりとしたリーダーのもとで成長した子供なら、すべて自分の糧にできる。空気抵抗があってこそ飛行機だって空を飛べるのだから。






(上毛新聞 2009年7月2日掲載)