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東京福祉大・大学院教授  栗原 久(前橋市昭和町)




【略歴】群馬大大学院工学研究科応用化学専攻修士課程修了。同大医学部助手、同助教授、和漢薬研究所を経て現職。専門は薬理学。著書に『カフェインの科学』など。


効果的な禁煙法




◎喫煙動作の排除を





 たばこは「毒の缶詰め」とも呼ばれ、喫煙者本人だけでなく、受動喫煙による非喫煙者の健康問題も指摘されている。実際、喫煙はガンの原因の約3分の1を占め、循環器・呼吸器系疾患などの有力な要因となっている。妊婦の喫煙は胎児の成長に有害である。

 喫煙は、たばこ葉に含まれるニコチンの摂取を求める、薬物依存を反映する行動である。サルを用いて各種薬物の依存性を比較すると、ニコチンは覚せい剤の約4分の1、ヘロインの約16分の1と評価される。しかし常習喫煙者の禁煙成功率が約10%と非常に低いことから、喫煙の依存性は最悪の依存性薬物とされるヘロインを超えるとの意見がある。なぜ禁煙がこれほど難しいのだろうか。

 大脳新皮質の前頭葉には骨格筋運動の指令を出す運動野があり、そのすぐ後方の頭頂葉部分には身体各部からの感覚刺激が入力する体性感覚野がある。これらの部位は、手指と口唇の運動や感覚を支配する領域の面積が非常に広いことが特徴で、人が言葉をしゃべる、指先を使った微妙な作業ができることと関係している。

 喫煙では、シガレットを指で挟み、唇につけて煙を吸うが、1本当たり10回吸引すると、1日1箱(20本)で200回も繰り返すことになる。このような喫煙動作は大脳の運動野や体性感覚野を繰り返し刺激し、面積が広いだけに強く脳に記憶される。そのため禁煙すると、ニコチンに対する欲求に加えて、口がさびしい、手持ちぶさたなどの状態に陥り、無性にたばこが吸いたくなるのである。

 さらに、喫煙は食事直後、仕事の合間、自動車の運転中など、特定行為と結びついて行われる。これらの繰り返しも記憶され、関連行為があると喫煙欲求が高まる。

 喫煙の特徴から、効果的な禁煙法が提案できる。

 ニコチンパッチを用いて皮膚経由でニコチンを吸収させれば、手指や口唇への刺激を伴わないので、喫煙欲求に加えて、喫煙動作を減らすことができる。ニコチンガムは口唇刺激があるので、パッチより有効性は低い。喫煙の代替にシガレットやパイプに似た禁煙グッズを口にくわえる方法は、喫煙動作を維持しているので、有効性は低いと考えるべきである。また、普段喫煙していた場所では吸いたくなるので、すぐに離れることも大切である。喫煙欲求は禁煙開始から2日間は強いが、その後は次第に弱まり、2週間でほぼ消える。

 禁煙者のほとんどは体重が10~15%増える。しかし、禁煙すると総合的な健康度は喫煙中より明らかに高まり、がん、循環器・呼吸器疾患のリスクも低下する。体重の増加を恐れて禁煙を中断すべきでない。






(上毛新聞 2009年7月4日掲載)