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ワイン醸造責任者  仁林 欣也(山梨県甲州市)




【略歴】館林市出身。立正大経済学部卒。地方公務員を4年で退職。山梨でブドウ栽培と醸造を実地で学び、2002年からシャトージュン(株)の醸造責任者として勤務。



畑仕事の季節



◎摘粒は時間との戦い




 この時季は畑の仕事が忙しく、雨の中でも畑仕事をしなくてはなりません。梅雨の晴れ間を縫うように病害虫防除の消毒をしたり、生育のバランスを崩すような枝を切り払ったりします。

 生食用の場合には、大きくなったブドウの粒がぶつかり合ってつぶれないように、ハサミやピンセットを使って小さな粒を間引きする摘粒(てきりゅう)という作業も行われます。これは時間との戦いで、ブドウが大きくなるまでに行わなければならず、手際の良さと根気のいる作業です。ブドウは自然にあの形になるわけではないのです。

 余談ですが、巨峰の一房は何グラムくらいあるかご存じでしょうか。山梨では平均500グラムでつくります。そして着粒数は32から36粒とだいたい決まっています。

 720ミリリットルのワインを1本作るのにはブドウ1キロが必要です。巨峰を2房並べてみてください。それがワイン1本分になるわけです。ワイン用のブドウは山ブドウのように小さいので、ちょうど一房がデラウエアくらいの大きさです。これを1キロ分用意すると、8から9房くらい必要になります。赤ワインなどの場合、果皮と種子にうまみの成分が集中しているため、房の小さなブドウをワインにするのは、大変理にかなっています。

 摘粒作業が終わると、ワイン用も生食用も雨にぬれないようにしなくてはなりません。大変病気に弱い植物なので、房の一つ一つに紙やビニールのかさを掛けて、雨に当たらないようにします。これは少しでも農薬の使用を控えるための知恵でもあり、農薬が過剰にブドウにかかってしまうのを防ぐ目的もあります。これら作業は機械化が出来ないので、すべて手作業で行われています。ブドウ一つ育て上げるにもとても多くの手が掛けられています。

 ワイン用でもまだたくさんの手を掛けてほしいところですが、ワイン用は生食用の3分の1ほどの価格で取引されます。生食用と同じ価格で買い取りをしたら、ワインは大変高価なものになってしまいます。農家が安い価格でも栽培してくれていたのは、畑を荒らして周りに迷惑をかけるくらいなら肥料代くらいになればいい、といった感覚でおじいさん、おばあさんに畑仕事をしてもらっていたからでしょう。

 最近その世代がいなくなって、耕作放棄される畑が目立ってきています。ワインは原料不足なのに、造り手である農家は自分たちの生計を立てるために生食用の高収入ブドウの栽培で手いっぱいです。担い手のいない農家は畑を放棄せざるを得ない状況です。農業県山梨でも耕作放棄される畑が増えてきています。小規模個人経営でも成り立つ農業政策を考えてほしいものです。ワインは農業ととても関係が深い。





(上毛新聞 2009年7月12日掲載)