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弁護士  上野 俊夫(館林市本町)




【略歴】中央大第二経済学部卒。2002年、司法試験合格。都内の実家を離れ、母のふるさと群馬の法律事務所に入所。08年4月、館林市で開業。一橋大大学院修士課程履習中。



裁判員制度



◎冤罪防止の環境に意義




 裁判員制度がいよいよ始まった。本県でも、裁判員裁判の対象となる銃刀法違反の起訴があり、読者の中でもいずれ裁判員に選任される方がいるだろう。

 ところで、ある新聞社がインターネットで調査したところ、「裁判員をやりたいか」という問いに対しては、「やりたくない」という回答が62%だった。「裁判員制度で刑事裁判がどう変わると思うか」という問いに対しては、「審理が感情に左右される」「判決にばらつきが出る」という回答が多かった。これらのアンケート結果からすると、やはり多くの国民は裁判員制度に消極的だと言えるだろう。そして私も、当初は、裁判員制度が刑事裁判にとって良い制度だとは思えず、疑問を持っていた。

 もっとも、裁判員制度の実施に伴い、冤罪(えんざい)(無実の罪で有罪とされること)防止につながる環境が整備されてきている。

 冤罪の多くは、やっていない罪を捜査機関に自白させられることによって生まれる。もちろん、捜査機関は無実の人を犯人に仕立て上げることを意図しているわけではない。だが、事件解決を焦り、行き過ぎた取り調べが行われて、虚偽の自白調書が作成されてしまう場合がある。

 弁護側が自白調書の証拠能力を争った裁判員裁判の対象事件のうち、裁判所が自白調書の証拠能力を否定したケースは、05年は2・5%に過ぎなかったが、07年は14・3%まで上昇している。これは裁判所が裁判員裁判を見据え、法廷中心の審理を目指し、捜査段階で作られた自白調書の証拠能力を厳格に判断するようになってきているからだろう。また、現在、取り調べを完全に録画するための議論が進んでおり、これが実現される可能性が高い。これにより強引な取り調べはできなくなり、その結果、虚偽の自白調書も減る。そして、虚偽の自白調書が減れば冤罪も少なくなる。

 以上のような冤罪の防止につながる状況の変化は、いずれも裁判員制度の実施に伴ってのことだ。裁判員制度の実施は、このような状況が生まれたことだけでも意義があったと思う。そして、裁判員制度そのものが冤罪防止に役立つかは、今後の運用次第である。裁判員になる皆さんには、自白調書はあるが法廷で被告人が罪を否認した場合、自白調書が信用できるかを厳しく判断してもらいたい。

 足利事件の菅家利和さんは無実の罪で逮捕され、虚偽の自白を強要され、約17年半、冤罪で身体拘束を受けた。これは決してひとごとではなく、誰にでも起こりうることだ。今のところ国民に評判の悪い裁判員制度だが、同制度は冤罪の防波堤になる可能性を秘めていることを理解し、協力いただければと思う。




(上毛新聞 2009年7月24日掲載)