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明正会認知症ケア研究所長  福島 富和(前橋市富士見町小暮)




【略歴】県立高齢者介護総合センター所長を務め、現在、医療法人社団明正会認知症ケア研究所長。ぐんま認知症アカデミー幹事、日本認知症ケア学会評議員。



認知症ケアの人材育成



◎知恵絞って充実を




 現在、私は医療法人で認知症ケア研究所を任せられている。その仕事は現場での経験を基に専門知識を加え、すぐに活用できる人材を育成することである。教育方法はさまざまで、演習形式の研修、症例検討でのアドバイス、講演などだ。

 皆さんはご存じだろうが、日本は世界一の長寿国で、女性の平均寿命(2008年)は86・05歳。実に24年連続世界1位の座にある。長寿に伴い認知症の発症率は高く、85歳以上では25%以上に発症するとのデータがある。したがって認知症とどう向き合うかという問題は決してひとごとではなく、近い将来わが身、わが家族に降りかかる問題だ。

 認知症は比較的長期にわたり進行する病気で、私たちは人生の最終ステージに病を抱え生きる可能性がある。高齢者ケアとはそのような状況の中で高齢者自身の生き方を考え、どのような支えがあれば「その人なり」の人生を全うできるかを考えることが欠かせない。

 この現実かつ近未来の人類的課題に対して今、支える側の人材が不足している。課題は単に福祉に従事する職業人口だけの問題ではない。高齢者ケアは本来、ケアの内容こそが問われなければならない。なぜなら、人生の終盤にさしかかり、その人がどう生きたか、これからどう生きたいか、人生の意味を考えることは人間にとって切実な問題だからだ。そこをより丁寧に、安寧に支えることができる社会こそが、「本当の豊かさ」であると思う。

 特に認知症ケアは大変な知力、人間性、感情のコントロール、体力のいる仕事である。では、その人材教育はどうなっているのであろうか。群馬県ではこの部分を県立高齢者介護総合センターが担ってきた。自治体直営によるこうした取り組みは全国でも珍しく、介護の実践力を底上げした「群馬モデル」は注目を集めた。しかし財政難を抱える国が補助金をカットしたため、県では公共施設のあり方が検討され、同センターの特養部門を民間移譲する方針が示されている。

 本来、この課題は福祉系の教育機関が担うべきなのであろう。現時点で介護現場の実態は認知症ケアが中心だが、教育カリキュラムは身体介護中心である。肝心の認知症ケアについてはほんの数ページしか載っていない。新カリキュラムでは改正され、認知症は大きく取り上げられている。しかし、気になるのはその人材が、認知症ケアを学び、資格を取り、実際に活いかされるまで当然のことながら時間がかかる。その間もケアは休むことは許されない。そして、認知症ケアとは、人生の経験と仕事での経験に加えて、専門知識や、現場実習などが融合して初めて成り立つ領域の仕事なのである。関係者は知恵を絞り出さなければならない時が来ている。





(上毛新聞 2009年7月28日掲載)