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群馬パース大教授 栗田 昌裕(東京都文京区)




【略歴】愛知県出身。東京大医学部卒、同大大学院修士課程修了。内科医師。医学博士、薬学博士。栗田式能力開発法を提唱。渡り蝶「アサギマダラ」の研究家。



イメージ能力



◎早期に鍛え、元気に




 知性は言語能力とイメージ能力に分けてとらえられます。言語能力とは言葉を操作して対象を理解し記憶し思考する力です。イメージ能力とは五感を用いて対象をとらえ、その体験を想像力でふくらませながら内面操作して理解し記憶し発想して行動に役立てる力です。以下、イメージ能力が若々しい知性を保つ上で重要なことを説明し、それを高める方法を紹介します。

 心理学では知性の年齢変化を「結晶性知能」と「流動性知能」という概念で説明します。結晶性知能とは学習や社会経験に基づく能力で、先の言語能力に対応します。流動性知能とは新しい環境に適応する際に働く能力で、先のイメージ能力に対応します。一般に「結晶性知能は発達に時間がかかるが、年を取ってもそう簡単には衰えない。しかし流動性知能は加齢とともに低下しやすい」といわれています。これは「年を取るにつれて、学習能力が低下したり新しい環境に適応しづらくなるが、それは言語能力は低下しないのに、イメージ能力が低下するから」と言い換えられます。この考えに基づいて「高齢になったら、新しい環境は避けて、言語能力をよく維持して生きていこう」と提案される傾向があります。それに対して私は「放置するとイメージ能力が低下するからこそ、早い時期からそれをしっかり鍛えて伸ばしておこう」と提案します。

 言語能力は社会生活を続けていれば保たれますが、イメージ能力は知らないうちに低下し個人差も次第に大きくなります。イメージ能力が高いと、日常でよく五感が働いて多くの情報を吸収でき、知的成長が持続します。イメージ能力が衰えると、環境から取り込む感覚情報が減り、想像力も不活発になり、精神生活は委縮していきます。

 そこでイメージ能力を高めるために、以下の「観察訓練」と「イメージ訓練」とを実践してください。

 1分間、野外の風景を言葉を用いないで映像としてとらえながら、よく観察し、直後によく思い出してください(できればスケッチしてください)。残った記憶の乏しさや誤りを実際と見比べて再点検して、環境から得ている情報の質や量を自覚しましょう。この方法を繰り返して、環境から五感を用いて情報を取り込む力を改善してください。

 次に、想像上の風景に種をまいて発芽させ、色彩と陰影と広い背景を伴った鮮明なイメージを連続的に描きながら、1分間かけて立派な樹木に育ててください。樹木が描けるようになったらさまざまなイメージを描くことを習慣としてください。想像力を豊かに働かせながらイメージ能力をよく用いればはつらつとした精神活動をいつまでも楽しむことができます。





(上毛新聞 2009年7月29日掲載)