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県自然環境調査研究会員  斉藤 裕也(埼玉県小川町)  




【略歴】横浜市出身。北里大水産学部卒。環境調査の専門家として尾瀬ケ原、奥利根地域などの学術調査に参加。ヤリタナゴ保護に取り組み、ヤリタナゴ調査会会長。



目に余る外来魚の増加




◎在来希少種の保護策を




 2008年度版の群馬県の環境白書によれば、県内には63種の魚が生息している。このうち、外国から(外来種)や国内の他の地域から(国内外来種)の魚はおよそ30種で、もともと生息していた在来種とほぼ同数に及んでいる。他の地域から移植された魚がいかに多いかわかる。

 水中の人の目に触れにくいところで、多くの魚が移植され続けてきている。この移植種の多くは、人が食用として利用するのを目的として移植されたり、それに伴って混ざって入ってきた。しかし、最近は単に釣りを目的として、わざわざ外国から持ってきて放された魚がいる。ブラックバス(オオクチバス、コクチバス)やブルーギルである。

 これらの魚は今まで移植された魚と異なって、直接的に魚を食べる魚食魚であることから、今までの水域に生息していた魚に与える影響がすこぶる大きい。ため池などに放たれた場合は、数年で在来の魚を食べ尽くしてしまい、池の中はこれらの魚だけの世界となってしまう。目に余る外来種の増加に、ついに外来生物法という法律まで国がつくる必要が出てきたのである。すでに県内のいくつかのため池では水抜きを行って、これらの外来種を駆除している。しかし、秘密裏に放流する者がいて、密放流と駆除の「イタチごっこ」が繰り返されている。

 ヤリタナゴのような希少な魚の保全を行う場合、繁殖が良好に進められるよう、同じ二枚貝を使うライバルのタイリクバラタナゴを除去しているが、これ以外に、せっかく増えた魚が捕食されないようにすることも大切な保護手段である。ヤリタナゴ生息地にも小さな池が一つあり、時々見るようにしているが、バスを駆除しても数カ月すると誰かが放すことが繰り返されている。

 群馬ではムサシトミヨ、シナイモツゴ、ミヤコタナゴなど7種がすでに絶滅したことが判明している。特にタナゴの仲間は5種いたうちすでにヤリタナゴしか残っていないのである。この貴重なヤリタナゴを末永く生存させるには、多くの人の知恵と汗、さらに行政による継続的な対策が必要なのである。

 県の魚「アユ」の不漁問題から、川の魚をたくさん食べるカワウの捕食圧によって川の魚が極端に少なくなり、川や湖の魚の管理を行う漁業組合の経営は厳しく、衰退が顕在化しているなど、群馬の魚を取り巻く問題は山積している。いずれも簡単に解決できない構造的な要素が含まれている。しかし、複数の方向から解決の糸口を探れば、少しずつではあるが問題の解消に向けて動くことが可能だと思っている。特にカワウは移動能力が高いので関東各県が共同歩調をとっていくことが必要である。







(上毛新聞 2009年8月24日掲載)